呪術

呪術のイメージ

一般的に呪術とは、人が人智の及ばないことに対して、行動・言葉・観念などによって対応しようとすることを広く意味しています。それは原始的な時代における踊りによる祈願から始まり、術者が意図を持って祈祷・治療・呪い・祓いなどを執り行う形態になった現代呪術まで、すべてが“呪術”のひと言には含まれています。

呪術の持つ歴史と背景

太古から人類は、(現代で言うところの)呪術を利用してさまざまな願いを叶えようとしてきました。猟の成功や作物の豊作といった生活の豊かさを願ったり、病気の平癒や怪我の回復を祈願したり、ときには争いの勝利や神々の怒りと考えた自然災害を鎮めるために行なった生贄による祈願など、人類の歴史には常に呪術が根付いていたと言っても過言ではありません。呪術は原始的なものから自然に始まって次第に系統立ったものとして整理されていき、あるものは宗教として姿を変え、あるものは迷信として風習化され、あるものは民間信仰として残り、さまざまにその形式を整えつつ、口伝の呪文や書物として伝えられてきて、現代に受け継がれています。

現代社会における呪術は、信じる信じない関係なく、決して科学によって説明したり解明したりできません。迷信や風習として伝えられていることが多いため、“なぜ?”に対する答えが必ずあるとは限らないのです。普段の生活で「これは呪術である」と認識して触れる機会はないことでしょう。しかしながら実のところ、呪術はひとつの観念として定着しているのです。恋愛における「おまじない」、季節や年齢に合わせた「儀式」や「祭り」がそれに当たります。

文化としての呪術

呪術は、人の歴史の中で長く生活に密着してきたため、文化としても根付いています。日本はもちろん世界には、国ごと、地域ごと、民族ごとに異なる文化が存在しているのはご存じのことでしょう。それぞれの文化は、独自のルールやマナー、タブーなどを持っています。吸血鬼や魔女に対する退治方法や魔除け方法、死者の弔い方、死者の霊に対する信仰や祀りごと、誕生や結婚の儀式など、生活に密着した多くの行為が、実は超自然的な理由を持つ呪術と密接な関係や重なり合う歴史を持っているのです。日本でも、北枕を嫌う風習やお盆に先祖供養をするなどの身近な習慣が、自然科学では解明できない理由から行われている行為として、実は隠れた呪術的要素を持っているのです。また上述の通り、宗教へと入っていった呪術も多く、各種祈願には呪術的要素が多く含まれています。神々が起こしたとされる奇跡の多くは、やはり自然科学だと解明できない超自然的なものです。それらを信じるという思想や祈るという行為も、人類の原始的な呪術と通じるものがあるといえるでしょう。

医療の中の呪術

日本における漢方治療や鍼やお灸を使った治療は、現在でこそ科学的に効能が証明されているものもありますが、その発生は呪術的なおまじないと経験による知識を源としています。同様に温泉治療も、湯に含まれている成分が分析される以前から、治療として湯治が行われてきました。マッサージや按摩、指圧なども医療的行為ですが、その源は呪術に結びつけることができます。霊気(レイキ)や手かざしなどの治療、ヒーリング行為も一部で信じられている呪術の一種と見ることができます。もっと身近な例で言うと、怪我をしたときの「痛いの痛いの飛んで行け」も科学的裏付けはなくともときには効果を発揮する以上、呪術(呪文)のパワーを持っていると考えることができます。“手当て”もまた、本来は患部に手を当てることで痛みを癒そうとする呪術的行為を指す言葉でした。

日本だけでなく、世界各地で呪術が医療として使用され、現在に至っても利用されている例があります。アフリカやアメリカの一部には、シャーマンとして呪術によって医療行為を行う人が今も存在しています。彼らは代々受け継がれてきた薬草(ハーブ)や毒草などに関する知識と経験によって、悪い元(悪魔や霊的なものを含む)を取り除く治療を行います。シャーマンの世界には自然科学による裏付けは存在せず、必要ともされていませんが、現代科学によってその効能が裏付けられることも少なくありません。このように、呪術は治療法として、民間療法から科学的医療分野にまで、影響を及ぼしているのです。

占いと祈りと呪術

呪術とは、超自然的な力や力を持つ霊的な存在が行う行為、または指示を与えて人に行わせる行為のいうことができます。宗教的な預言は、神やその使いが神託として伝えるものですが、これのもっと身近な例が占いから受けるお告げです。信じる程度は人それぞれですが、靴を蹴った表裏で天気を占うのも、おみくじで吉凶を占うのも、タロットカードで恋を占うのも、その大元を辿れば呪術から来ているのです。受験前に神仏に参ることで合格という願いを叶えようとする行為や、誕生・成長・結婚・葬儀に際しての儀式もまた、その時々の幸せや幸運、来世への希望などを祈るものであり、やはり呪術的な要素を含んでいます。

このように呪術は、特別な人が特別な機会に使う特別なおまじないばかりではなく、ごく身近なところに自然に溶け込んでいます。ただその対象が概念であり、不可視と言うだけの話なのです。一部の呪術は、実際に効力があるためその利用には正しい知識や手順が必要ですが、多くは人の生活をより豊かにしたり、願い事が叶えたりしてくれるかもしれない「おまじない」的な存在と言えるのです。