祈祷師

祈祷師とは

祈祷師のイメージ

人は古代から、祈ることで人力の及ばないことを実現させようとしてきました。祈りは、個々だけでなく集団生活の中でも行われ、集団の中心となったり専門的に祈る役割を持ったりする人も現れました。それが祈祷師です。

一般的に祈祷師とは、祈祷(祈り)を一定の知識に基づき文化的・宗教的な背景のもとで儀式として行う人を指します。祈るという行為を職業的・専門的に行う祈祷師が誕生したのは、人が集団生活をするようになり、社会全体の平安や発展を祈る必要性が生まれたことと深く関係しています。実例としては、先史時代の原始的な宗教やアニミズム、シャーマニズムからシャーマンなど祈祷師が誕生したことがあげられるでしょう。日本では巫女が日本の歴史上初期の祈祷師として登場し、その代表として知られるのが邪馬台国の卑弥呼でしょう。

祈祷師は、社会の発展や文化の多様化、特に宗教活動の活発化によってその人数を増やし、社会の中での祈祷師としての地位と祈祷師間における上下関係が確立されてきました。

祈祷師の種類

小さな集団社会の中でなら祈祷師は一人いれば十分ですが、社会が巨大化し複数の集団が存在するようになると、それぞれの集団ごとに祈祷師が必要となり、祈祷師はその人数も祈祷の形態も、人々の需要に応じて変化させる必要がでてきました。古代にはシャーマンや巫女といった、宗教よりも民間信仰を基礎とした祈祷を行う祈祷師が大半でしたが、宗教が人々の生活に影響を与えるようになると、祈祷師もまた宗教との結びつきを濃くしていきます。その結果、神事を行う神官や加持祈祷を行う僧侶などが、祈祷師としての役割も果たすようになったのです。神楽・祭り・吉凶占いなど現在も残る宗教的な風習は祈祷の一種です。

ただし、神官や僧侶に祈祷を依頼するには相応の礼ができる身分が必要とされてきました。天皇やその一族、貴族といった一部の高貴な人々だけが彼らの祈祷を受けることができたのです。同時に、俗世的な祈祷は高位の神官や僧侶の扱うべき案件とはみなされなかったため、社寺とのつながり持ちつつも独立した立場の祈祷師である山伏・修験者・密教呪術師・陰陽師・道士・シャーマン・風水師などが現れたのです。彼らは、より幅広い社会を対象に、やはり幅広い祈祷を比較的安価に引き受けました。しかし、多くの民間人はそんな祈祷師さえ雇うことができませんでした。そのため、社寺から独立した民間信仰を基礎とする、より庶民的な祈祷師が生まれたのです。これが、イタコ・ノロ・拝み屋など、現代社会にも残る祈祷師たちへとつながりました。

寺社などの宗教的な環境で修行や教育を受けた神官や僧である祈祷師、それに近い修行を積みつつも寺社に属すことなく活動する祈祷師、さらには民間人の中に混じった祈祷師などが存在していますが、この三者はその手法や影響力でも一線を画すわけです。

できることとできないこと

古来、祈祷師は、五穀豊穣・大漁・大猟・天候回復などを祈り、吉凶を占い、幸運不運を判断することなどを行ってきました。個人的な願望や関心よりも、集団としての繁栄や除災が主でした。また多くの場合、祈祷から実現に至るには時間がかかり、祈祷師はその能力だけでなく精神力や体力的な強さをも必要とされたと言われています。

祈祷師の中には、呪術師や霊能力者も含まれますが、特殊な能力を生まれ持つわけではなく、修行や学業によって身につけた知識・経験を活かして祈祷を行っている例も多くあります。そのため、祈祷師の実力にはかなりの幅があり、その能力は多岐に及んで発揮されるものの、効果は必ずしも保証されません。

これは現代の祈祷師にもいえることで、彼らは祈願者のために祈祷を続けることで、その願いが実現するよう働きかけることはできますが、それが実現する時期を明確にすることや、その効果を保証することは原則としてできません。

祈祷師になるには

祈祷師と名乗るのに資格こそ必要ありませんが、適性はあります。まず素質として、一定の体力があること、そして精神状態が安定していて強靭であることが求められます。その上で、祈祷を行うための儀式や手順に十分に通じていることや潔斎の重要性を理解し実行できることなども祈祷の効果をより高めるために必要とされます。

人はさまざまな形で祈祷(祈り)を捧げながら暮らしています。社寺に参詣した時だけでなく、空や星を見て願い事をつぶやいたり、行動や自然現象から吉凶を占ったりすることは、我々の生活の中に何気なく溶け込んでいます。ただ、より強い願望や必要性の高い占いを行う時には、それなりの専門家に頼むことで効果を上げる必要があります。その時に依頼するのが祈祷師なのです。神官や僧侶などの宗教家的な祈祷師に依頼することもあれば、それに近いものの社寺からは離れた世俗的な祈祷師である陰陽師や風水師などを選ぶこともあります。また、より身近な祈祷師であるイタコや霊能力者などを頼る方法もあります。それぞれの祈祷師たちは、その得意分野や祈祷方法が異なるため、依頼する側の必要性に沿って選ぶ必要があります。祈祷師の定義が広いため、世の中には祈祷師という名のもとに不十分な知識しか持たず儀式的にも不十分な内容しか行えないニセモノも少なからず存在しています。依頼する側はより高い効果を得るためにも、祈祷師とはどんな存在なのかを良く知った上で、その質を見極める目を持つべきでしょう。