コックレーンの幽霊

コックレーンの幽霊のイメージ

コックレーンの幽霊とは、に起こったイギリスの首都ロンドンのコックレーン通りで起こったポルターガイスト現象のことを指します。実はイギリスという国は、日本と同様に心霊現象や幽霊話、怪談が数多く報告されているのです。

発端と心霊現象

ロンドンのスミスフィールド市場の近くにあるコックレーン通りのリチャード・パーソンズの家に、ウィリアム・ケントとその内縁の妻フランシスが下宿するようになりました。そのときから、なんとも奇妙な出来事が起こり始めたのです。

ケントはこの家に引っ越す前、妻のエリザベスを出産中に亡くし、子供も後に亡くしていました。その後、ケントは妻の従姉妹にあたるフランシスと恋に落ちたのですが、法律で結婚は認められず、フランシスは内縁の妻としてケントに寄り添っていたのでした。そして二人は生活の場を、パーソンズ家に下宿する形で始めたのです。直後から、奇妙な怪現象がパーソンズ家で起こり始めました。幽霊が現れたり、フランシスの寝室のドアを叩く音がしたりというポルターガイスト現象です。

結局、ケントとフランシスはその現象に耐えきれずに引っ越すことに。その後、フランシスは病で亡くなりました。しかし、その後もパーソンズ家のポルターガイスト現象は収まらなかったそうです。そこへ持ってきて、今の霊は亡くなったフランシスの霊である、と家主のパーソンズが主張を始めたことから、部屋のドアを叩いたりひっかいたりする心霊現象だったので、霊は「引っ掻きのファニー(フランシスの愛称)」と呼ばれるようになりました。

その後、霊の正体、またその真意を調べようと、調査のための交霊会がパーソンズ家で行われました。交霊会とは、霊媒者を通して霊とのコミュニケーションを図る会のことです。パーソンズ家のポルターガイスト現象はすでに周囲に知れ渡っており、近所の人の興味の対象となり、交霊会の日は多くのギャラリーがパーソンズ家の前に集まったと言われています。交霊会の調査結果は、霊が自分はフランシスだと名乗り、ケントが自分に毒を盛って殺したと主張する内容だったと言われています。もっとも、その結論は容易に受け入れられるはずもなく、再度、調査委員会がパーソンズ家の幽霊を調査することになりました。すると彼らは、これはポルターガイスト現象ではないという前回とは真逆の調査結果を発表したのでした。

霊現象と事件の背景

なんとこれらのポルターガイスト現象は、すべてパーソンズ家の長女エリザベスが発端だと結論付けたのです。さらにエリザベスは、パーソンズから命令されてポルターガイスト現象を引き起こしていたと調査委員会は語ったのです。実はパーソンズは、高利貸しのケントから借金をしていたにもかかわらず、まったく返していなかった事実が明るみになりました。この件は訴訟問題にも発展しており、その恨みからパーソンズがケントを陥れるためにポルターガイスト現象と偽っていたと言われました。また調査委員会は、パーソンズとポルターガイスト現象を認めた交霊会も有罪であると主張しました。

しかしその後、事件はまたしても急展開を迎えます。病気で亡くなったはずのフランシスが、実はケントに毒を盛られていたのではないかと疑われたのです。なんと今度は、ケントに殺人の容疑がかかったのでした。一連のポルターガイスト現象は、実はケントの前妻エリザベスが、ケントの悪事を知らせようと霊になってパーソンズ家に現れたとされたのです。またフランシスの死後、エリザベスとフランシスは2人とも成仏できず、現世に留まっているのだともされました。もっとも、フランシスが毒死したことは医学的に証明されておらず、ケントが堅く閉ざされたフランシスの棺を開けさせなかったのは、毒死がバレないようにしたかったというのも憶測でしかなかったため、どれも明確な証拠とはならないものでした。またパーソンズの娘エリザベスも、父親からポルターガイスト現象を引き起こすことを強要されたことは認めておらず、「父を詐欺師にしたくない」と涙を流したと言います。その後彼女は、度重なる交霊会や裁判で心身ともに弱ってしまったと言われています。結局、人間関係のドロドロとした一面が表に出てきたことで、ポルターガイスト現象の明確な証拠をつかめないままとなってしまったのでした。

この事件の影響

この事件は、最終的に宗教論争の的にまでなりました。メソジスト派は、霊が現実社会に現れたとされる事象は信仰を肯定するものとして歓迎しました。一部の信者は、カソリックの遺物だとイギリス国教会よりも信じていたと言われています。一方イギリス国教会は保守派であることから、このような事件に宗教が巻き込まれることに眉をひそめたと言われています。街の通りのアパートで起こった小さな心霊現象は、当事者たちの手を離れて、メソジスト派とイングランド国教会派の対立を生むほどの大きな事件になっていったのでした。