ヴァニタス画

ヴァニタス画とは

ヴァニタス画のイメージ

ヴァニタス画とは、16世紀から17世紀にかけて、ヨーロッパ北部で主に描かれた虚無的で寓話的な静物画のことを指します。人間が向かっていく死という定めの象徴ともいうべき頭蓋骨や腐ってゆく果物など、一見するとホラー的な要素を含め、人生の空しさや死を想起させるものを静物画に加えることで、人生や虚栄の儚さを伝える役目を担っていました。「ヴァニタス」という言葉は「虚しさ(空しさ)」を意味し、バロック期の精神を現す言葉とも言われています。また、ヴァニタス画に描かれる道具は、それぞれが以下のような意味を持っているとされています。

  • 頭蓋骨‥‥「確実な死」
  • 麦わら、貝殻、泡‥‥「簡潔な人生と唐突な死」
  • パイプ、ランプ、砂時計‥‥「人生の短さ」
  • 楽器‥‥「人生の刹那さ、簡潔さ」
  • 熟した果物‥‥「加齢と衰退」
  • 書物‥‥「知識の虚栄」
  • 金貨、宝石‥‥「富の虚栄」

ヴァニタス画の有名な画家

ビーテル・クラースがに発表した「ヴァニタス」の絵が最も有名でしょう。テーブル上にある書物の上に頭蓋骨が置かれている作品で、ほか花や手紙ともに頭蓋骨を描いた作品もあります。描かれた当初は鮮やかな色彩の絵でしたが、時の流れとともに色あせて抑えられた色合いのヴァニタス画になっています。他に、エヴェルト・コリエ、コリネス・ド・ヘームの「ヴァニタス」は、武具や楽器の影に頭蓋骨が垣間見られる控えめなヴァニタス画と言えるでしょう。ほかにもポール・セザンヌ、フランス・ハルスも描いています。ハルスのヴァニタス画は肖像画で、手に頭蓋骨を持っているという大胆なもの。コルネリス・ヘイスブレヒツは、ヴァニタス画でだまし絵を描いていたことで有名です。「ヴァニタス画のあるアトリエの家」は、ひとつのヴァニタス画が変化していく様を見せていく実にユニークな作品と言えます。

ヴァニタス画の歴史

中世のヨーロッパの美術界において、人生の儚さ、空しさをテーマに描かれた絵画、あるいは創作された美術品、彫刻などは多く存在しました。死をテーマにした悲観的な作品も多く作られましたが、それは直接的ではなく間接的に比喩をもって描かれることが多かったと言われています。またヴァニタス画が生まれた背景には、静物画の地位向上の狙いもあったようです。当時、静物画は宗教画、歴史画に比べて格が低いと考えられていたのです。リアリティを追求する静物画は人気を博しましたが、内容が希薄で、一時的なブームと芸術界では思われていたのかもしれません。そこで、静物画の地位を向上させるために、宗教的な比喩を加え、人生空しさ、確実にしのびよる死を描いたヴァニタス画が誕生したのです。ヴァニタス画はそのように深い意味を内包した絵でありましたが、静物画として物体を描く快楽も存在していました。ゆえに絵が放つ空しさを伝えるメッセージと絵を描く快楽が、ひとつの作品の中でせめぎあい、不思議なパワーを秘めているのです。