感染呪術

感染呪術とは

感染呪術のイメージ

もとは同じもの、もとは接触していたもの同士は、それぞれに離れて別に存在するようになっても、その関係性を保ち、相互に作用しあうという考え方を「感染呪術」と呼びます。ある人が着用した衣類はその持ち主の身から離れても、まるで分身のような関係性を持ち続けると考えられることがあります。また、ある人の爪や髪の毛など体の一部もまた、その体から切り離された後もその持ち主との関係性を保ち続けると考えられがちです。これらの考え方は感染呪術と呼ばれ、宗教や文化などの中で、ある時は呪術の一種として、ある時は生活の一部として存在しています。

そもそもこれは文化人類学者によって定義された言葉ですが、現在では人類学のみならず呪術界を含む広い分野で通用する用語表現となっています。私たちの日常生活の中でも、それを「感染呪術」と認識することはないものの、感染呪術的な考え方や行動を自然としていることが少なくありません。

感染呪術の例

古くは戦いの場に赴く男性に対して、肉親や妻や恋人が肌身離さず身に着けていたものや髪の毛などの体の一部を「お守り」として持たせることがありました。現代でも、片思いの相手の第二ボタンに特別な意味合いを持たせることや、互いの制服のネクタイなど身に着けるものを交換することなどで、そのつながりを強固にできると考えることが少なくありません。これらは感染呪術的な考え方が生活に浸透している証拠といえます。また、これらのプラスに働く感染呪術だけでなく、もちろんマイナスに働く感染呪術例もあります。憎い相手の髪の毛や持ち物に対して、焼いたり切ったりといった危害を与えることで、そのもとの持ち主に同等の危害を与えることができるという呪術が行われることもあります。これもまた感染呪術の一例といえます。呪いのわら人形などに対象者の髪の毛や爪を入れて釘を打ち込む「丑の刻参り」などは有名な話でしょうか。

感染呪術と類感呪術

感染呪術と同時に語られることの多い呪術用語に類感呪術があります。この二つには離れたところにいる人や物が互いに影響を与え合うという共通があります。しかし、感染呪術が離れた存在の両者がもとは一つだった、または互いに密に接していたという特徴があるのに対して、類感呪術は必ずしも元の状態にこだわらず、似ていることを条件とします。例えば、対象にそっくりな人形を作って呪術を行うことで、本体にも影響を及ぼそうとするのが類感呪術であり、対象の一部や身に着けていたものを使って呪術を行うことで、本体に影響を及ぼそうとするのが感染呪術です。

共感呪術と感染呪術

呪術には対象に直接働きかけるものと間接的に働きかけるものとがあり、後者を共感呪術と呼ぶことがあります。感染呪術と類感呪術とは、この共感呪術に含まれると考えられます。呪術を行う対象が本体そのものではなく、その分身ともいえる類似したものや一部分などであるからです。

感染呪術は、直接呪術をかけたり手を下したりすることができない対象に対して有効な呪術です。必要なのは、対象の一部を構成していた爪・髪の毛などのほか、身辺に接触していた衣類や持ち物など、また時には足跡や影も代替的な呪術対象とすることができます。これらの代替対象に対して行った呪術が、本来の呪術対象に対しても感染するように影響を及ぼす、それが感染呪術なのです。