聖痕(聖痕現象)

聖痕(聖痕現象)とは

聖痕(聖痕現象)のイメージ

手足から血がにじみ出る、額に傷ができる、脇腹に痣ができる、しかし、ケガも病気がその原因ではない…。これらはすべて、キリストの受難に関係する場所に現れています。この科学的に証明できない何らかの力で現れる傷や血、血を含んだ涙や汗などを聖痕と呼び、その現象を聖痕現象と呼びカトリック教会では奇跡として尊ばれています。

聖痕とは、無実の罪で鞭うたれ十字架刑となったキリストが、釘を打たれた手足、槍で刺された脇腹、茨の冠で傷ついた額などと同じ場所に痣、傷、出血などが起こることを基本的に指しています。聖痕をその身に受けることはキリスト教徒にとってもっとも深い信心の証しとして尊ばれ、聖痕が現れた信者自身が崇拝対象となり、時には列福や列聖されることもあります。聖痕現象は科学的に証明することができず、もちろん医学的な治療もできません。信者やその身近な者に起き、自然治癒するものもあれば、周期的に出現と消滅とを繰り返すものもあるといわれ、聖痕が現れることが、その信心の深さを周囲から認められることにつながる場合もあります。

聖痕が現れる条件

聖痕は信者、または信者の非常に身近な者(例えば自身の信心を意識はしていないが信徒である幼子など)に現れるとされます。そして、聖痕が現れる時にはキリストや聖母マリアの姿を見る、声を聞くといった別の奇跡が同時に起きていることが多いのも特徴です。しかし実際には、信者以外の一般人の間でも聖痕現象に近いものが発生していることから、宗教的な奇跡としてよりも心理的な現象として捉えられる研究者もいます。

聖痕が現れた実例

歴史上、聖痕として認められた現象は500例を超えるとされます。このうち少なくとも約50人は列福された福者や列聖された聖人です。アッシジの聖フランチェスコは、1224年にキリスト教会では初めて、天使から両手両足と脇腹に聖痕を受けたとされ、死後の1228年に列聖されました。敬虔なクリスチャンのテレーゼ・ノイマンは、毎週金曜になると5か所の聖痕から激しく出血したそうです。近年の有名な例では、2002年になって列聖されたピオ神父がいます。彼は今から100年程前のイタリアの聖職者で、数々の奇跡と聖痕を受けたという記録が残っています。

聖痕が心理的現象だとする説

聖痕の記録を調べると、キリストの受難が宗教的に注目を浴び、信心が深く浸透した13世紀頃から増えていることがわかります。このことから、聖痕は強い信心から起こる「宗教的な恍惚状態」や、キリストがその身に受けた受難に対する共感から起こる「精神的な同一化」が影響しており、これらの信心が高じた結果の「自傷行為」も少なからず含まれているとされています。これらの説や実例に対しては、近年になって「実はキリストは手の平ではなく手首に釘打たれた」という説が唱えられるようになると、聖痕が手の平ではなく手首に多く現れるようになったという報告は、宗教心が強く心に働きかけることが、聖痕になんらかの影響を与えているだろうという主張を裏付けているともいえそうです。

聖痕は「聖なる痕」としてその痕と痕の持ち主をも聖なるものにしてきました。聖痕がなぜ・どうやって発生するのかは今も科学的に証明されていませんが、それが奇跡であっても、信心などの心理的な理由からくる行為によるものであっても、そこに深い信心が存在していることだけは確かです。