曼荼羅

曼荼羅(まんだら)とは

曼荼羅のイメージ

曼荼羅とはサンスクリット語の「mandala」の音だけを漢字であらわしたもので、漢字自体に特に意味はなく、密教の経典に基づき、主尊を中心に関連のある諸尊などを、円形や方形の絵の中に整然と配置して描かれた図のことを指します。サンスクリット語の「mandala」には、「円」、「本質のもの」、「中心を持つもの」などの意味があって、そのことが曼荼羅の語源となったとも言われています。曼荼羅には密教の、それぞれの宗派の世界観や宇宙観があらわされており、曼荼羅の構造が各宗派の思想を示しています。そのため、現存する曼荼羅の数は数百にのぼり、インド、中央アジア、中国、朝鮮半島、東南アジア諸国などの各国に所在しています。

曼荼羅の種類、形態

曼荼羅には様々な種類がありますが、大きくは次のように分けることができます。

立体曼荼羅

諸尊や曼荼羅に描かれた図を鋳物や塑像で造立し、曼荼羅の形式に配列したものです。日本密教では「羯磨曼荼羅」(かつままんだら)と言います。京都、東寺講堂に安置される大日如来を中心とした21体の群像は空海の構想によるもので、この羯磨曼荼羅の一種とされています。

大曼荼羅

経典の主尊をはじめとする、諸仏の像を絵画として表現したものです。日蓮宗においては、法華経の世界を表した曼荼羅の「法華曼荼羅」を大曼荼羅と言うことがあります。

三昧耶(さまや・さんまや)曼荼羅

諸仏の姿を直接描く代わりに、各尊を示すシンボルであらわしたものです。諸仏の代わりには、金剛杵(煩悩を打ち砕く武器)や、蓮華(れんげ)、剣、鈴などが描かれます。これらのシンボルは、「三昧耶形」(さまやぎょう)と呼ばれ、各尊の悟りや働きと密接に繋がるものとなっています。

法(ほう)曼荼羅

諸仏の姿を直接描く代わりに、1つの仏を1つの文字(サンスクリット文字、梵字、チベット文字など)で象徴的にあらわしたものです。仏をあらわす文字を、仏教では「種子」(しゅじ)あるいは「種字」ともいうことから、「種子曼荼羅」と言うこともあります。

砂曼荼羅

壇を作り、その壇上に宝石などを砕いたものや、彩色した様々な色彩の砂を用いて描いたもの。描き上げられるとすぐに壊されてしまうので、諸行無常の教えの象徴であるとされています。

四種(ししゅ)曼荼羅

上記で紹介した「大曼荼羅」、「三昧耶曼荼羅」、「法曼荼羅」、「羯磨曼荼羅」のことを、まとめてこう呼ぶことがあります。

曼荼羅の歴史

曼荼羅の原形は、古代インドにおけるバラモン教やヒンドゥー教の儀式の中に見られます。壇上に白い粉で様々な幾何学模様や神像を描き、天上にいる神々を招いて、供養、祈願する空間を作り上げていました。この様式が仏陀(ブッダ)の説く仏教に取り入れられると、壇上には仏や菩薩が描かれ、諸仏を招き、護摩(ごま)や灌頂(かんじょう)といった儀式が行われるようになっていきました。その後、組織的な密教が成立する初期密教を経て、中期密教の時代の曼荼羅が中国から日本に伝わり、日本では日本独自の曼荼羅が誕生します。

日本密教独自の曼荼羅

両界曼(りょうかい)荼羅(両部曼荼羅)

この曼荼羅は日本密教の中心となる仏、大日如来の説く真理や悟りの境地を視覚的に表現した曼荼羅で、「金剛界曼荼羅」と「大悲胎蔵曼荼羅」(胎蔵曼荼羅、胎蔵界曼荼羅とも言う)の2つの曼荼羅を合わせて両界曼荼羅と呼んでいます。

大悲胎蔵(だいひたいぞう)曼荼羅

大悲胎蔵曼荼羅は、大日経に基づいて描かれた曼荼羅です。曼荼羅は全部で12の院(区画)に分かれており、その中心に位置するのが「中台八葉院」であり、8枚の花弁を持つ蓮の花の中央に、腹前で両手を組む「法界定印」を結んでいる胎蔵界大日如来が描かれています。大日如来の周囲には4体の如来、「宝幢」(ほうどう)、「開敷華王」(かいふけおう)、「無量寿」(むりょうじゅ)、「天鼓雷音」(てんくらいおん)が四方に配置され、さらに4体の菩薩「普賢(ふげん)菩薩」、「文殊師利(もんじゅしり)菩薩」、「観自在(かんじざい)菩薩」、「慈氏(じし)菩薩」がその間に置かれ、合計8体が表されています。中台八葉院の周囲には、「遍知院」、「持明院」、「釈迦院」、「虚空蔵院」、「文殊院」、「蘇悉地(そしつじ)院」、「蓮華部院」、「地蔵院」、「金剛手院」、「除蓋障(じょがいしょう)院」が同心円状にめぐり、これらすべてを囲む外周に「外金剛部(げこんごうぶ)院」、またの名を「最外(さいげ)院」が位置しています。これは内側から外側へ向かう動きを暗示していて、大日如来の智慧、悟りの本質が現実世界において生まれ育っていく様子をあらわしているとされています。

金剛界曼荼羅

金剛界曼荼羅は、金剛頂経という密教経典に基づいて描かれた曼荼羅です。曼荼羅は全部で9つの区画に分かれており、金剛頂経に説かれる28種の曼荼羅のうち、「金剛界品」の曼荼羅6種、「降三世品」の曼荼羅2種に、「理趣(りしゅ)経」の曼荼羅を加えて「九会(くえ)」としたものです。九会は「成身会(じょうじんえ)」、「三昧耶会(さまやえ)」、「微細会(みさいえ)」、「供養会」、「四印会」、「一印会」、「理趣会」、「降三世会(ごうざんぜえ)」、「降三世三昧耶会」から成っています。そのため、「九会曼荼羅」と呼ばれることもあります。中心にある成身会の中尊は、左手の人差し指を右手の拳で包み込む「智拳印」を結んでいる金剛界大日如来です。金剛界曼荼羅は、金剛の固さのように堅固な大日如来の悟りが、何ものにも傷ついたり揺らいだりすることがないことをあらわしています。

密教曼荼羅以外の曼荼羅

日本では密教経典に基づく曼荼羅以外にも、仏教系、神道系を問わず、神仏が集会(しゅうえ)する図像や文字列に、曼荼羅の呼称を使用する場合があります。

浄土曼荼羅

浄土曼荼羅は「観無量寿経(かんむりょうじゅきょう)」などの経典に説かれている、阿弥陀浄土のイメージを具体的に表現したもので、この種の作品を中国では「浄土変相図」と称するのですが、日本では曼荼羅と称しています。浄土曼荼羅には図柄、内容から大きく分けて「智光(ちこう)曼荼羅」、「当麻(たいま)曼荼羅」、「清海(せいかい)曼荼羅」の3種があり、これらを浄土三曼荼羅と呼んでいます。

垂迹(すいじゃく)曼荼羅

特定の神社の祭神を本地仏(神の本体である仏)、または垂迹神(本地仏が神の姿で現れたもの)として曼荼羅風に表現したものを垂迹曼荼羅と言います。この曼荼羅にも多くの種類があり、本地仏のみを表現したもの、垂迹神のみを表現したもの、両方が登場するものがあり、代表的なものに「熊野曼荼羅」、「春日曼荼羅」、「日吉山王曼荼羅」などがあります。それぞれ、和歌山県の熊野三山、奈良の春日大社、比叡山の鎮守の日吉大社の祭神を並べて描いたものになります。

宮曼荼羅

本地仏や垂迹神を描かず、神社境内の風景を俯瞰的に書いた作品の中にも、曼荼羅と呼ばれているものがあります。これらは神社の境内を聖域、浄土として捉え、あらわしたと考えられています。

供養曼荼羅

チベット仏教における供養(仏や菩薩、諸天などに香、華、燈明、飲食などの供物を真心から捧げること)の一種に曼荼羅供養というものがあり、この供養に用いられる金銅製の法具も曼荼羅と言います。この「供養曼荼羅」という法具を用いて、十方三世の諸仏に捧げる供物としています。