邪視

見ただけで相手に災いが降りかかる

邪視のイメージ

邪視とは呪法の一つです。悪意を持って相手を睨みつけることで、その相手を病気にしたり、衰弱させ、死に至らしめることができるとされています。神話にも登場する力で、目を合わせたものを石にしてしまう怪物・メデューサや、見た者は命を落とすというバジリスクなどがその例です。

昔から世界各国で言い伝えられてきた邪視の力。特に中東を中心としたヨーロッパの地域では「邪視信仰」と言われる言葉があるほど、今も根強くその力は信じられています。

中東を中心に広がる「邪視信仰」とは

邪視信仰とは、人から褒められたり、羨望の目が向けられた人や物に不幸が訪れるというもの。例えば、「最近、大きな一軒家を建てた」と誰かに話した時、相手から「素敵なおうちですね」「うらやましい」などと言われると、家が火事になったり、一家の主が病気になるといった災いが起きてしまう…という考えです。日本人の感覚からすると、相手を持ち上げることでコミュニケーションを円滑にしたくなるものですが、中東を中心とした一部の地域では、現在も人から褒められたり、うらやましがられることを極端に避ける人がいるのです。

生きていれば、故意にせよ、故意ではないにせよ、誰もが邪視の呪いを受ける可能性があります。そのため、昔から邪視信仰が根強い中東では、邪視に対抗する御守も存在します。

邪視から身を守る方法

ナザル・ボンジュウ

青いガラスで作られた目玉が特徴的な、トルコに伝わる御守です。「ナザル」とは、トルコの言葉で「強い嫉妬の目」「激しい羨望」を意味します。サイズは大きなもので数十センチ、小さなもので1~2センチと幅広く、大きなものは壁掛けとして、小さなものはキーホルダーとして使われることが多いです。ナザルが家に入ってくると、ナザル・ボンジュウが持ち主の身代わりとなって砕け散ると言います。

ファーティマの手

イスラムの世界で愛用される護符です。手のひらに目を描いたデザインで、紙に描いたり、金属板に打ち出して護符にし、邪視を遠ざけます。人間が携帯するほかにも、家畜の首につるすなど、物にも効果を発揮します。西アジア、地中海で用いられてきたもので、古代カルタゴの遺構からも発見されたと言われています。

以上の2つは目を象っており、まさに「目には目を」という言葉がぴったりくる邪視除けの方法です。ほかにも、手の人差し指と小指を立て、残りの指を握りこむ動物の角のようなハンドジェスチャーや、塩やにんにくも効果があると言われています。

人をうらやましいと思ったり、反対に人からうらやましがられるということは、誰しも一度は経験があると思います。その心の動きは、時に人を傷つける可能性があることを、ぜひとも覚えておきたいものですね。