黄泉の国

日本神話にも描かれる死者の世界

黄泉の国のイメージ

黄泉の国とは、死んだ者の魂が向かう死後の世界、いわゆる「あの世」のことです。この世が地上にあるとするならば、黄泉の国は地下の奥深くにあるとされています。黄泉の国は、日本神話に登場する神・伊邪那岐命(イザナギノミコト)が妻である伊邪那美命(イザナミノミコト)を迎えに行った場所として、『日本書紀』や『古事記』にも描かれています。

伊邪那岐命と伊邪那美命 その1

日本神話において、この世界が誕生した天地開闢(てんちかいびゃく)の時、「神世七代(かみのよななよ)」という七代の神が生まれました。伊邪那美命と伊邪那美命は、神世七代の最後にともに誕生したのです。やがて2人は結婚し、日本を形作る数々の国や神々を生み出しました。ところが、伊邪那美命は火の神・火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)を産んだ時、陰部に大やけどを負って亡くなってしまいます。

最愛の妻を失い、伊邪那岐命は悲しみに暮れました。そして、どうしても妻を諦められなかった彼は、伊邪那美命を連れ戻すために、この世とあの世の境界である「黄泉比良坂(よもつひらさか)」を通り、黄泉の国を訪れます。伊邪那岐命は、黄泉の国の扉の向こうにいる伊邪那美命に対してこう呼びかけます。

「愛する妻よ、私とお前の国づくりはまだ終わっていない。どうか一緒に帰っておくれ」

しかし、伊邪那美命は喜ぶどころか、悲しみの声でこう答えるのです。

「ああ、どうしてもっと早く来てくれなかったの。私は黄泉の国の食べ物を食べてしまったので、もう元の国には戻れないのです。けれど、愛するあなたのために、地上へ帰ってよいか、黄泉の国の神様に訊いてみます。それまでは、決して私の姿をのぞかないでください」

伊邪那岐命と伊邪那美命 その2

伊邪那岐命は、しばらくの間は言われた通り扉の前で待っていましたが、待てど暮らせど妻からの音沙汰はありません。そしてとうとう我慢できずに、小さな火をともして黄泉の国への扉を開けてしまったのです。しかし、扉の向こうにいたのは、すっかり変わり果ててしまった妻の姿でした。その身体は腐りかけてうじ虫がたかり、恐ろしい雷神たちが取り憑いています。

「あれほどのぞくなと言ったのに、あなたは私に恥をかかせましたね」

伊邪那美命はそう言って怒り狂い、追っ手を放って伊邪那岐命を殺そうとします。伊邪那岐命は必死に黄泉比良坂へと逃げますが、伊邪那美命の怒りは鎮まりません。そしてついに、伊邪那岐命は千人がかりでないと動かせないほどの大岩を使って、黄泉比良坂をふさいでしまいます。こうして2人は離れ離れになり、伊邪那岐命が置いた大岩によって、この世と黄泉の国は永遠に行き来できなくなってしまったのです。

日本神話における黄泉の国

日本神話では、黄泉の国は以下のように描かれていることがわかります。

  • この世界と黄泉の国は、黄泉比良坂という境界によってつながっていた
  • 黄泉の国の食べ物を食べると、元の世界には戻れなくなってしまう
  • 黄泉の国は死に近い神々や腐乱した死体で穢れている

この世とあの世は隔てられてしまいましたが、伊邪那岐命が大岩で境界をふさいでからというもの、亡くなる人よりも生まれる人が多くなり、地上に人が繁栄していったと伝えられています。