クトゥルフ神話

アメリカの雑誌から生まれた架空の神話

クトゥルフ神話のイメージ

クトゥルフ神話とは、1920年代にアメリカの小説家ハワード・フィリップス・ラブクラフトの作品をもとにした架空の神話です。ラブクラフトの死後、彼の崇拝者で小説家のオーガスト・ダーレスらがこれまでの作品や登場する神々の設定などを集め、体系化しました。

「クトゥルフ」はラブクラフトが発案した造語で、つづりは「Cthulhu」と、本来人間には発音できるものではありません。そのため、邦訳される際も「クトゥルー神話」「ク・リトル・リトル神話」「クルゥルゥ神話」など定まっておらず、ばらつきが見られます。

クトゥルフ神話のあらすじ

クトゥルフ神話が描くテーマは「宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)」。これは、ラブクラフト自身、他のホラー作品の中でも特に重きを置いていました。「宇宙のような、人智を超えた存在の前では、人間の価値観や希望などなんの意味も持たない」「意思疎通も理解すら拒まれる他者の恐怖に晒されている」という恐怖や孤独感を表現しようとしたのです。クトゥルフ神話の大筋も、太古の地球を支配していた異形のもの(物語の中では「旧支配者」と呼ばれる)が現代によみがえるというものです。

クトゥルフ神話の原点、『クトゥルフの呼び声』から、そのあらすじをご紹介します。主人公“ぼく”は、謎の死を遂げた大叔父の遺品から粘土板とノートを発見。粘土板には古代文字のようなものと不気味な生物が刻まれていました。そしてノートには、とある青年がこの粘土板を持参し、古代文字の研究を行っていた大叔父に解読を依頼していたことが記されていたのです。しかし、その青年は不審死を遂げます。もしかしたら、大叔父の死にも何か秘密があるのではと疑問を持った“ぼく”は、調査を開始。ついに、「クトゥルフ」が海底の古代都市「ル・リエー(ルルイエ)」に封印された「旧支配者」たちだということを突き止めます。しかし、それは人が知るべきではない禁忌で、“ぼく”もまた、自らの死期が迫っていることを知るのでした。

ラブクラフトの価値観

吸血鬼や幽霊を題材に描くホラー作品が多い中、ラブクラフトの描く世界は当時の世界に衝撃を与えました。そうした「クトゥルフ神話」が描く恐怖には、ラブクラフトの私生活や価値観が多く反映されています。例えば、彼は大の海産物嫌いでした。小さい頃から母親に甘やかされ、好物のチョコレートやアイスばかり食べて育ったために、病的なほど海産物を毛嫌いしていたのです。そのため、物語に登場する異形のものは、「タコに似た頭部に無数に生えたイカのような触手」「緑色のうろこに覆われた姿」など、海の生き物の姿をしています。また、ラブクラフトはいわゆる人種差別主義者で、非白人に対して偏見を持っていました。物語の中にも、人間と人間ではないものの混血種が登場しています。

日本におけるクトゥルフ神話

クトゥルフ神話が描く恐怖やその魅力に取りつかれたのは日本も例外ではありません。多くの作家によって翻訳されたほか、『邪教の神』(高杉彬光著/角川文庫)など、様々な作品の中でたびたびモチーフとして取り上げられました。2000年代後期になると、ライトノベルのモチーフとしても扱われます。『這いよれ!ニャル子さん』(逢空万太著/GA文庫)では、クトゥルフ神話に登場する神々を美少女に擬人化。もともとは恐怖の対象であったクトゥルフ神話の神々が「萌え」の対象となっているのです。

こうした小説やアニメ作品以外にも、テーブルトークRPG(紙や鉛筆、サイコロ等を用いて、プレイヤー同士の会話やゲームルールに則って遊ぶロールプレイングゲームのこと)の題材としても扱われるなど、その知名度はますます広がりを見せています。