薔薇十字団

薔薇十字団のイメージ

薔薇十字団(ばらじゅうじだん)やローゼンクロイツという神秘的な存在と名称を、映画や書籍の中から知った人も多いのではないでしょうか。しかしながら、その実態についてはそれほど多くの人に知られていません。そこで薔薇十字団とはどのような存在だったのか、今回探ってみましょう。

薔薇十字団とは何か

薔薇十字団とは、17世紀の初頭にドイツで活動を行っていた秘密結社のことで、ヨーロッパ全土にまで及ぶ思想運動を担っていました。開祖はクリスティアン・ローゼンクロイツなる人物で、ローゼンは“薔薇”、クロイツは“十字”を意味し、それがそのまま団の名称となっています。薔薇十字団は、古代からの錬金術魔術などを用いて人々を救うことを志していました。特にこの薔薇十字団が刊行した匿名作者の4つの基本文書は、当時非常に大きな反響を呼びました。その影響はいまだに残っており、薔薇十字団の流れを汲む組織や薔薇十字団員と自称する人物も、少なからず存在していると言われています。

主要な4つの文書

薔薇十字団がヨーロッパ全土にその存在を知らしめることになった4つの文書とは、に刊行された「全世界の普遍的かつ総体的改革」というパンフレットと、その付録だった「薔薇十字団の伝説」、翌年のに刊行された2冊目のパンフレット「薔薇十字団の信条」、に刊行された小説「化学の結婚」を指しています。これらのパンフレットや書籍の中では、に死んだといわれる開祖ローゼンクロイツの復活が予言され、人々を死や苦しみから解放する地上世界の実現を目指す薔薇十字思想が表現されていたといいます。いずれも興味深い神秘学の専門書であるだけでなく、ヨーロッパの精神史にとっても、思想的・文学的な意味で非常に大きな影響を与えたと言われています。

薔薇十字団創設の秘話

薔薇十字団は、神智学とユートピア思想を奉ずるメンバーによって創設されたと言われています。始まりは開祖ローゼンクロイツの名前にちなんだ「Rosen Kreuz友愛団」として結成され、後に「薔薇十字団の同志」と呼ばれるようになりました。これが徐々に「薔薇十字団」と呼ばれるようになったのだとされています。この薔薇十字団のメンバーを指名したのは、神学者であったヨハン・バレンティン・アンドレーエという人物でした。実は後になって、薔薇十字団が刊行した4つの文書は、すべて彼が手がけたことが判明しています。さらに今では、開祖ローゼンクロイツ自体も架空の存在であり、すべてアンドレーエが創り上げた空想だったことがほぼ確定されています。

アンドレーエは、錬金術に強い興味と関心を寄せた牧師の息子であり、多大な影響下で育ちました。大人になったアンドレーエは父を引き継ぎ、ルター派の牧師となります。そして、理想的な王国を造ることを夢見るようになったのです。やがて、グノーシス主義やカバラ、錬金術などに通じていたクリストフ・ベゾルトというギリシア学者の影響もあり、アンドレーエは秘密結社へと傾倒し、薔薇十字団のメンバーを指名するに至ったと言われています。

規則と思想

薔薇十字団には、次のような6つの規則があると言われています。

  • 無報酬で病人を治すこと
  • 滞在する土地の習慣に従うこと
  • 毎年1回「聖霊の家」に集まること
  • 自分の後継者を決めること
  • 「R・C」という文字を印章とすること
  • 1世紀以上、薔薇十字団の存在を秘密にしておくこと

これが規則です。薔薇十字団の思想は、万物には調和が存在すること、そして調和が乱されるのは悪魔によるものとするものです。そして神聖なる数字を追究することで、完全性を目指していました。このような思想に対して特に強い影響を与えているのは、グノーシス、カバラ、錬金術、ヘルメス思想、中性とプロテスタントの神秘主義だったと言われています。

薔薇十字団と錬金術

薔薇十字団の思想のうち特に中心となっていたのは、錬金術でした。錬金術は、薔薇十字団が求めていた完全なる普遍的な知識を得るためには欠かせない術だったのです。薔薇十字団は、旧約聖書の「創世記」に書かれている天地創造ですら、錬金術的な過程であったとしており、錬金術を習得することによって完全な存在として、天地創造を担う神のいる領域にまで高められると考えたのです。実際、薔薇十字団員は、万病薬の探求を行っていたと言います。そして規則にもあるように、無報酬で病人を治療することを通して、社会改革をも目指していました。

薔薇十字団の思想に影響を受けた人々

薔薇十字団は、後の世に多大な影響を与えています、著名な人物では、ゲーテやユング、モーツァルト、シュテファン・ゲオルゲ、ホフマンスタール、フランシス・ベーコン、デカルトなどがいます。その影響は作曲家としても知られるエリック・サティにまで及び、に彼はピアノ曲「バラ十字団の鐘」を作曲しました。

今ではそのベールがはがされ、ローゼンクロイツも架空だったことが判明した薔薇十字団。しかし、その神秘性が失われたとは言えません。構築されたローゼンクロイツの経歴や思想は、実に緻密で精巧であることが大きな理由と言えそうです。