言霊

言霊(コトダマ)とは

言霊のイメージ

言葉に宿るといわれる霊力のことを「言霊(ことだま)」と呼びます。簡単にいえば、人間が言葉を発した際に、その言葉と共に神秘的な力が込められ、何らかの影響がもたらされるというものです。良い言葉を言えば、物事に良い影響が、悪い言葉を言えば、物事に悪い影響が及びます。古くから日本に根付き、今もなお信じ続けられている「言霊」について、詳しく解説していきます。

言霊とは言葉には神秘的な力が宿っており、発した言葉の通りに事象を起こす力があるという考え方です。古くは万葉集で山上憶良や柿本人麻呂が「言霊」について詠んでいることから、1,000年以上もの歴史のある言葉です。それだけ、言葉が大切にされてきたことが分かります。

もしネガティブなことを言えば、その言葉の通りにネガティブなことが起きる。そして、ポジティブなことを言えば、その言葉の通りにポジティブなことが起きる。これが言葉に込められたパワーであり、言葉は未来を決めてしまうと考えられています。この考え方は、今でも根付いており、古くから「言霊信仰」として存在していました。

言霊信仰とは

古くから、日本では「言」=「事」という考え方があり、良き言葉は良き事象を招き、悪き言葉は悪き事象を招くという、言葉と事象が一致すると信じられていました。古事記における国生み神話においても、大いなる宇宙の神がイザナギノミコトとイザナミノミコトの両神に対して、国を作り出すよう指示をしたと伝えられています。このとき発せられた言葉が、最初の言霊であったとされています。

こうして古くから根付いていた言霊への信仰は、「祝詞」の存在そのものからも感じ取ることができます。祝詞とは、それを唱えることで、神を奉ることができる超越した言葉のことです。それゆえ、祭りや祈願の際に読み上げられる祝詞は、決して誤読があってはならないと伝えられてきました。一言一句、丁寧に、間違いなく、しっかりと発音することで、神を奉ったのです。

また、現代にも引き継ぐもう一つの言霊信仰に、「忌み言葉」があります。よく、結婚式のスピーチにおいて、夫婦の将来を危ぶむような、言ってはいけない、避けるべきとされている言葉のことです。例えば、「去る」「切る」「別れる」「帰る」「戻る」「終わる」などの言葉が代表です。「終わる」を避けたことから「お開きにする」が使われるようになったともいわれています。通夜や葬式の場面でも、「重ねる」「重ね重ね」「再び」など、繰り返して起きることを想起させるような言葉も、忌み言葉として避けられています。これも、言霊信仰が強く信じられていたことから起きた風習といえます。

アニミズムからくる言霊

アニミズムとは、万物に精霊が宿るという思想であり、神道などの古くからの土着信仰において根付いている思想です。言霊は、このアニミズム思想から生まれたともいわれています。つまり、何か言葉を発すれば、その瞬間にその言葉と意味が精霊に伝わり、言葉を受け取った精霊が、現象を動かすという思想です。

例えば、雨続きで晴れてほしいと願い「晴れてください」という念を込めた言葉を発すると、精霊が天気を司る神や精霊に念を届け、雨雲を遠退けたりするというしくみです。この考え方は、言葉そのものに霊力が備わっているというよりは、精霊が間接的に事象を促すという点で、一般的な言霊の思想とは少し異なります。

言霊研究

言霊は、多くの学者によって研究もされてきました。代表的なのは、折口信夫によるものです。折口の研究では、言霊の意味は、日本の古代の歴史からしても、3つの段階を経て変遷しているとされています。また、豊田国夫や、出口王仁三郎なども、言霊に関する見解を発表しています。特に出口王仁三郎については、言霊学を大成させたといわれています。そして、出口氏は言霊実験を行ったことでも有名です。その言霊実験の中身とは、祝詞を奏上することで、雨を降らせたというものです。まずは風の神へと祝詞を捧げ、風を呼びました。すると木の音一つ聞こえてこないほど、風一つ吹いていなかった状況の中、木々がざわめきはじめ、風が吹いてきたのです。そして、次はいよいよ水の神へ祝詞を捧げ、雨を降らすように依頼しました。すると、その言葉の通りのことが起きたのです。ポツポツと徐々に降り始めた雨は、最終的には土砂降りにまで発展しました。驚くのもつかの間、出口氏が「風やめ、雨やめ」と言葉を発した瞬間、風も雨も一瞬にしてやんだのだといいます。このような実験は、一度だけでなく、暴風雨すら出口氏の言葉一つでおさまるといったことは当たり前のように起きたと伝えられています。

万葉集の時代から、現代にまで引き継がれている「言霊」という概念は、まさに日本独特の信仰であり、考え方であるといえます。信仰という狭い枠組みを超えた、一般常識となっていることは、言霊の特殊性といえます。