木霊

木霊とは

木霊のイメージ

樹木に宿ると考えられている精霊のことを木霊(コダマ)と呼びます。または、樹木と木霊を一体と見なして精霊が宿る樹木そのものを木霊と呼ぶこともあります。木霊は人にとって崇拝対象であり、大切に祀れば恩恵を、傷つけたり無視すると災厄をもたらしたりするともいわれます。

木霊はその言葉の表す通り、木に宿る霊のことで、「木魂」や「谺」と書き表すこともあります。さらに古い書物では「古多万(コダマ)」という木の神も登場しています。木霊は木に宿る存在ですが、精霊や神としてそこに存在するだけでなく、自然や人に対して反応したり働きかけたりもします。山や谷で大きな声や音を出すと、それがまるで返事をするように遅れて聞こえてくる山彦(ヤマビコ)も、木霊などの精霊によるものと考えられ、山彦のことをコダマと呼ぶこともあります。

木霊の姿

木霊は木に宿りますが、そこから離れることもでき、野山を自由に駆け回って移動することもできると考えられてきました。またその姿は、宿る木そのものと同じとは限らず、獣、人、光、火など、さまざまな姿で現れるといいます。

木霊と木と魂

人が霊と魂と肉体とで構成されているように、木もまた霊と魂という非物質的存在と、樹木という物質的存在とで構成されているという考え方もあります。この場合、木霊は樹木にとって魂にあたります。

木霊が宿る木

どんな木にも木霊が宿るとは限りません。古木、巨木、神域に立つ選ばれた木などは、人にとっても精霊にとっても特別な木であり、人はそれを崇拝や畏れの対象とし、精霊はそれを宿り木とします。これらの木そのものが、人にとっては信仰の対象となります。また、木に宿る木霊は、その木がなんらかの理由で失われても消え失せることはなく、また新たな宿り木に寄るともいわれます。

各地に伝わる木霊たち

沖縄の森の木にはキヌーシーという木の精が宿っているとされ、木を伐採する際にはキヌーシーに祈りを捧げる習慣があります。伊豆諸島にも木霊伝説が複数あり、八丈島では木の霊であるキダマサマを祀る風習があり、青ヶ島では、コダマサマやキダマサマの名を持つ大木を信仰の対象としてきたそうです。

現代の木霊のイメージ

古い時代から、木に寄り添い木の枝に腰かける姿の木霊が絵画の題材となったり、物語に登場したりしています。現代に入り、コダマの名が広く知られるきっかけとなったのが、アニメ映画もののけ姫です。映画には、森深くにある巨大な木に属するコダマが、カタカタと音を立てながら頭をクルクルと回す姿で登場します。マンガや小説などにも、木霊が登場する機会が増えていますが、そのイメージは物の怪らしい不思議な姿の時もあれば、人の姿そのものである場合もあるなど、さまざまです。

深い森に囲まれていた日本には、神さびた古い巨木が多く立っていました。人は森の中でそれらに出会うと、まずその姿に畏れの念を抱き、そこに神や神に近い存在である精霊を感じ取るようになっていったのです。気候や天候、天変地異の数々が科学的に証明も予測もできない時代には、それらの原因を神や精霊などに求めることが多くありました。木霊もまた、山で起こる山彦のような不思議な現象、木を切ったことによる山崩れや山鳴りなどの災害を引き起こす存在と考えられました。その結果、木霊が宿りそうな木を敬い畏れ信仰することで、災厄から逃れようと考えるようになっていきました。現在では森が小さくなり、古い巨木が減り、科学によって一部の自然現象の証明や予測が可能になってきています。それでも、まだ自然には不思議が多く存在するため、今も人は木霊の存在をどこかで感じることがあるのでしょう。