アラハバキ

アラハバキとは

アラハバキのイメージ

アラハバキとは蝦夷の民間信仰の神で、漢字では「荒吐」「荒脛巾」「阿覇波比」「荒覇吐」と様々に書かれます。アラハバキは大和朝廷に追われた人々が崇める神で、主に北海道と東北でみられる民間信仰とされています。愛知県、島根県、愛媛県などでもみられるものの、西日本ではアラハバキを祀る神社は多くありません。

なお、大和朝廷があった京都府や奈良県を中心とした近畿地方では、アラハバキを祀る神社は数少ないと言われています。大和朝廷が日本を支配する際に、民間信仰の神を抑圧したため、アラハバキもないものとされたと考えられます。その名残なのか、関東以南ではアラハバキの名は使わず、あとから生まれた神を意味する「客人神(まろうどがみ)」という位置づけをしています。

アラハバキは「古事記」や「日本書紀」、伝統民話などに一切記載がなく、多くの謎に包まれているのが特徴です。唯一アラハバキが記されている書物として、東北地方の歴史書「東日流外三郡誌(つがるそとさんぐんし)」があります。しかし、書物へ対する信憑性が定かではないという意見も一部にあり、記載の内容がすべて事実とは限りません。しかし、古代から江戸時代に至る歴史を記した書物であるため、中には真実が書かれているとも考えられます。

日本最古の神と言われる所以

アラハバキが日本最古の神と言われる所以は、縄文時代の土器です。約2万年前の縄文時代にはアラハバキが存在したと言われています。その理由として挙げられるのが縄文土器の造形と柄です。縄文土器は渦巻柄が多いのが特徴です。アラハバキは一説で蛇の神と言われています。この縄文土器はとぐろを巻く蛇でありアラハバキを表現していると考えられています。

また、大和朝廷を抗いアラハバキを信仰する人々を「蝦夷(えみし・えぞ)」と呼んでいました。日本で最初の統一国家とされる大和朝廷がある時代にアラハバキは存在していることから、大和朝廷同様に最古の神の可能性があるとされています。

アラハバキの由来

アラハバキは謎の多い神のため、はっきりとした由来はありません。八百万の神々とは違い「日本書紀」「古事記」の日本神話にも登場していないことから、様々な説が浮上します。東日本に伝わる民間信仰の神とされる一方で、古来日本の土地に住み着く自然界の精霊である「土着神」という説もあります。髪は樹木や石、川に魂を宿す思想は世界各国にあり、日本最古の宗教である神道でも自然信仰が取り入れられているため一概に否定はできません。

また、古代インド神話のアータヴァカ由来である説も有力です。森林の主の意味を持つ鬼神で、人間を食い殺す恐ろしい存在として恐れられていました。密教においてアータヴァカは「大元帥明王(だいげんすいみょうおう)」や「阿羅婆鬼(あたばき)」という別名を持ち、風貌は体に蛇を巻き付けている特徴があります。阿羅婆鬼がアラハバキと音が似ていたり、どちらも蛇神だったりと共通点が多いことも理由としてあげられます。

アラハバキのパワー

アラハバキが大和朝廷に抗う神であるため、鬼神と表わされる説は少なくありません。一方で、土着神として自然界に宿り、生命エネルギーを高めるパワーがあるとも考えられています。蛇神説においては金運を上昇させる神としてご利益があるとされています。

謎が多いアラハバキの正体

アラハバキの正体にまつわる説は多々存在します。謎が多い神で真実は解明されていないため、多角的な視点から分析されています。

①蛇神説

アラハバキの正体が蛇神である説は中でも有名です。アラハバキの「ハハ」は、古語で大蛇を意味する「羽々」を示します。「ハハキ」は蛇神の依り代を表す「蛇木(ははき)」と捉えられます。さらに、密教に登場する鬼神「アータヴァカ」と風貌が似ているため、アラハバキは蛇と関係している可能性が高いと考えらえています。アラハバキを祀る最古の神社とされる北海道の金吾龍神社では、「荒波々幾」の漢字が当てられ、アラハバキが生命力を司る龍蛇神として祀られています。

②塞の神説

アラハバキは塞の神(さえのかみ)である説もあります。塞の神とは魔除けや他者の侵入を防ぐ役割を担った神です。宮城県の多賀城の地にはアラハバキを祀った神社があります。この神社は大和朝廷に抗う蝦夷を制圧するために、大和朝廷が築いた神社と言われています。あえて蝦夷の神を祀ることで、蝦夷の神ではなくその地の守り神という認識にすり替える目的があったようです。また、埼玉県の大宮氷川神社には門客人神社が併設されています。

③足の神

アラハバキには多くの漢字があてられますが、脛(すね)に巻く脛巾(はばき)を意味する「荒脛巾」と記す神社もあります。足の神と崇めてわらじや脛の部分に巻く布「脚絆(きゃはん)」を祀り、下半身の健康や足腰の治癒、交通安全のご利益を願います。

「荒脛巾」の多くは、記紀神話に登場する「長脛彦(ながすねひこ)」が由来です。長脛彦は記紀神話登場する人物で、神武天皇の大和平定に反抗して戦いに敗れたのち、東北地方に逃れて蝦夷になったとされています。この伝承が元となり長脛彦が神格化されて祭神とする説もあります。

アラハバキと出雲の関係

出雲の神を主祭神とする一方で、土着神としてアラハバキを祀るケースも少なくありません。愛知県の砥鹿神社は大国主命(おおくにぬし)を主祭神としながら、境内にアラハバキを祀る「荒羽々気神社」が存在します。また、埼玉県の大宮氷川神社でもアラハバキを地主神として崇めています。そのため大国主命の荒魂こそがアラハバキという説があるなど、出雲と縁があるのも謎の神と言われる理由です。

陰暦10月11日~17日の間、全国の神々が出雲大社へ集結する「神在月」の祀りごとは有名です。大国主命の使神である「龍蛇神」が八百万の神々を先導するとされています。大国主命の使神が龍蛇神であることから蛇を龍神と崇める風習があります。神在月に漂着したゼクロウミヘビは龍蛇神され各神社へ振り分けられます。稲佐の浜なら出雲大社、日御先海岸なら日御先神社、北浦海岸なら佐太神社にそれぞれ奉納されるのです。アラハバキの正体は解明されていませんが、古代出雲と共通点が多いことから深いつながりがあったと考えられています。