千里眼

千里眼とは~能力としての千里眼

千里眼のイメージ

千里眼とは、遠く離れていても人の心や物などさまざまなものを読み取る能力をいいます。ここでの千里とは、日本でいう約3900km(一里は約3.9km)という距離を指したものではなく、遥か遠い距離や広い範囲のことを比喩的に表したものです。したがって、千里眼をもつ者は、通常では到底目視することが不可能なところにあるものでも、詳細に見分けることができるのです。こういった力のことを、一般的には遠隔視と呼びます。また、距離に限らず障害となるものを透過して見る透視も千里眼のひとつといわれています。つまり、箱や封筒に入れられて遮蔽された状態にあるものでも、その中に入っているものがなんであるか、あるいはどのような状態であるかなど明確に言い当てることができる力なのです。これは、透視として知られています。さらに、距離や障害物に限らず、時間も越えてその先にある状況を見極める能力も千里眼のひとつとされます。未来視・過去視といわれる力です。このように、普通の人には実眼で見ることができないものを自分の目で見たものとして捉えることができる能力のことを、総称して千里眼といいます。

つまり千里眼と呼ばれる能力は、

  1. 遠隔視……一般的には遠すぎて見えないものがはっきりと細部まで見える能力
  2. 透視……箱の中や袋の中、体の中など外からは見えない状態にあってもそのものが見える能力
  3. 未来視・過去視……未来や過去の心理や事象について見る(感じる)ことができる能力

の三つが挙げられます。ただし、透視は千里眼とは異なり別な能力であるとする見解もあります。

千里眼という名の神

道教に媽祖(まそ)という女神がいます。媽祖は、航海や漁業の神として台湾や中国などで強く信仰されており、日本でも青森や鹿児島、沖縄など各地に縁の神社があり信仰されています。その媽祖に仕える随神として知られるのが千里眼なのです。千里眼は順風耳と一対であり、もともとは殷の国の暴君で知られる殷商紂王に仕えていた武将でしたが、その死後に鬼となって恐れられていました。しかし、媽祖によって改心し随神となったと伝えられています。千里眼は天上から下界のあらゆるものを見通す能力を持ち、順風耳はどんなに遠くの音でも聞き分けられる能力を持つとされ、この二つの力で媽祖を護っているのです。そのため、媽祖を奉った神社に立つ千里眼の像は、手を額に当て遠くを見る姿をしているのです。

千里眼で知られる人や神たち

御船千鶴子
熊本生まれ。少女時代に透視能力に目覚め、22歳頃より透視を使った心霊治療を行っていました。後に東京帝国大学の福来友吉助教授に出会い、透視能力を科学的に証明する実験に参加することに。しかし、実験の不正の疑いをかけられ失意のまま、服毒自殺することとなりました。
長尾郁子
御船千鶴子と同時期に話題となった透視能力者。裁判所判事夫人2児の母で、35歳の時に御船千鶴子に影響を受け修練の後透視能力を身に着けました。御船とは異なり、念写や予知で知られ、災害を予言する超能力者として注目を浴びました。福来友吉助教授によって科学的な念写実験を行い、成果を上げていましたが、実験の不備や不正を追及され手品との烙印を押されてしまいました。
広目天
情報の神として知られる仏教の四天王のうちの一人広目天(梵語ビルバクシャ)は、「尋常ではない目を持つ者」といわれ千里眼をもっていたとされています。また、仏教では天の神として、四方角を守る四天王の中の西方を守る神ともされます。千里眼によって下界のどんなことでも見通しあらゆることを把握しているといわれています。
媽祖(まそ)に使える鬼(千里眼)
航海や漁業の神として知られる媽祖を護る随神の1人。千里眼という名を持ち、その名の通りあらゆるものを見通す能力をもつといわれています。順風耳という地獄耳を持つ鬼と一対で仕え、それぞれの能力を使い媽祖を護っています。もともとは人間だったのですが、死後に鬼と化してしまい、その後媽祖との出会いにより随神として仕えることとなったのです。

千里眼にまつわる事件

日本では千里眼を持つ超能力者として、御船千鶴子や長尾郁子が知られています。明治の終わりの頃、千里眼による催眠術や心霊療法、未来予知などが世に知られ話題となっていきました。御船千鶴子は、当時熊本で千里眼による透視治療を行っており、長尾郁子は災害予知などで注目されていました。そこで、これらの千里眼という能力の信ぴょう性や話題性に興味を持った学者たちによって、学術的な見地から研究が行われることとなったのです。これが後に「千里眼事件」と呼ばれたものです。

当時、千里眼に疑念を抱く科学者も少なくない中で、2人は科学者やジャーナリストたちの前で公開実験を行うこととなりました。実験そのものは成功もあったものの、実験物のすり替えや妨害、改ざん、不審点などが噴出し、結果的に2人は周囲からの批判や疑惑を浴びることとなります。そのため御船千鶴子は実験終了後自殺の道を選び、長尾郁子は疑念が晴らせないまま病死してしまいます。最終的には、これらの千里眼は手品の一種であるとの結論が東京帝国大学元総長の山川博士によって発表され、この事件は終焉を迎えることとなりました。

千里眼は、クレアボヤンス(clairvoyance)と英訳されています。海外では、時として犯罪捜査や行方不明者などの捜索に、この千里眼を活用するケースもあります。最近は日本でも、透視能力などの千里眼をもつ超能力者がテレビの特番などで大々的に取り上げられ話題となることがあります。しかし日本国内では、千里眼事件以降こういった能力に正確な位置づけをすることがタブー視されてきた傾向があり、その地位はあくまでもオカルト的なものとして考えられることが多いのが実情です。ただ、このような千里眼を使って人々の相談を受ける占い師も活動していて、その力を必要としている人たちも少なくないこともまた事実なのです。