巫女

巫女のイメージ

巫女といえば、今では神社で初詣の際に登場し、授与所でお守りなどを販売する存在です。緋袴をまとった女子学生たちをよく見かけることでしょう。巫女という神秘的な存在に、小さい頃から憧れている女子学生も多いようです。巫女は、太古の昔、日本では政治的にも、宗教的にも国をあげて重要視されていた存在でした。何しろ、自分の身に神を降臨させてその神託を告げるという偉大なる業を行っていた者だったからです。巫女について、歴史と特徴をひも解いていきましょう。

巫女とは

巫女は、古来より神託を得たり、口寄せなどを行ったりする重要な役割を担い、雅楽の舞や占い、祈祷などに長けていた存在でした。神社で神事の奉仕をする役目がスタートしたのは、明治時代以降だったといわれています。

巫女は日本の民俗学者の代表ともいうべき柳田國男や中山太郎によって研究され、朝廷の巫(かんなぎ)としての役割と、民間において活躍した「口寄せ」としての役割に、二分できるといわれてきました。柳田によれば、この二つに分けられる巫女は、元々は同一の者を表していたそうです。しかし時代と共に、特定の神社に所属するのではなく、全国を遍歴して祈祷や託宣、勧進などを行いながら生活をしていた巫女たちの歴史が築き上げられました。

朝廷の巫(かんなぎ)

本来の巫女が持つ神がかり的なイメージは、祈祷などによって自己の意識を一種のトランス状態に持っていくところからきているようです。交信する存在に己を明け渡すのです。そして、神託として人々に伝えることを役割とします。これを一般的に「巫(かんなぎ)」と呼びます。

巫が交信するのは、神々の他、精霊をも含んだ、神界や霊界、自然界に存在するものたちすべて。世界の歴史では、古代ギリシア時代にすでに確認することができます。例えば、ギリシアのデルポイにあるアポロン神託は、アポロンの神官たちによる神託を意味します。

また、巫女といえば古代日本の邪馬台国を統治していたといわれる卑弥呼がそうであったと伝えられています。古代は、祭政一致の時代であり、巫女たちが国家権力の一部を担い政治に参画していたとみられています。このことは、古代の古墳文化にみられる埴輪に、巫女像が出土していることや、神話の至るところに巫女の族長や巫の呪術に関する記載が多く見つけられることからわかっています。

民間の口寄せ系巫女

朝廷や神社で巫女としての能力を発揮していた者たちとは別に、自らの「死人の口をきく」術である「口寄せ」を行いながら、決まった住居も持たずに各地を放浪していた巫女もいました。特定の神社に属せず放浪していた巫女として有名な存在として「梓巫女(あずさみこ)」がいます。主に関東地方や東海地方、南関東地域と甲信地方などの東国を中心に活動していたといわれています。彼女たちは、託宣や呪術も執り行っていたようです。その託宣の方法は、まず梓弓を鳴らしながら紙卸の呪文を唱えます。そして神懸かりを行い、生き霊や死霊を呼び出して、その呼び出した霊に対して仮託し、託宣や呪術を行っていたと伝えられています。

古代、中世、現代の巫女

現代社会において、巫女は主に神社に奉仕する未婚の女性というイメージがあります。表向きには祈祷の受け付けや神事における神楽の舞などがその仕事となります。

古代では、巫女王政治が行われ、国権をにぎっていたとすらいわれる巫女は、時代が進むごとに政権の座から姿を消していったといわれています。そして、巫女たちは芸能集団として再び姿を現すのだそうです。それが中世期に当たります。彼女たちは、「今様」と呼ばれる、平安時代中期から鎌倉時代にかけて、宮廷で流行した歌謡を伝え歩いたり、歌舞伎の原型を生んだりと、大きな活躍を見せています。

巫女に関する素朴な疑問とその答え

ここで、巫女に関する素朴な疑問を解消していきましょう。まず、古代の巫女は、どのように巫女になっていったのでしょうか。ある日、神から啓示を受けて巫になったというエピソードは、よく聞くお話です。巫女へのなり方については、いく通りかに分かれているといわれています。啓示によって巫女になる者の他に、修業によって成る者もいるといわれています。東北地方で口寄せに長けた存在にイタコがいますが、彼女らは盲目の少女時代に師匠に弟子入りし、巫業を修業した末に試験を受けて一人前のイタコになるのだそうです。また、巫女といえば、目が見えない者というイメージがありますが、実際のところどうなのでしょうか。

東北地方の巫女の習俗によれば、古くから巫女として存在していた女性たちは、「盲目の者」と、「晴れ目の者」とに分かれていたようです。口寄せなどを行うのは、盲目の巫女が大半を占めていたようです。盲目になったがために、やむを得ず巫女になることを選んだという者もいたそうです。そもそも盲目の女性は死者と交信する者という特別な役割が与えられていたといわれています。

巫女が古代から政治に関わって、国家を動かしていたという時代からは、随分遠のいている現代の巫女。今もなお、神社で神職の補助的な役割を担っている巫女は、古代においては、神道の神に仕える存在でした。現代においても、そのような神秘的な存在であることには変わりないといえるでしょう。