シャーマン
シャーマンとは、通常とは異なる状態に意識を変化させ(変性意識状態)、霊的存在や死者、神と交信を図る役割を担った人間のことです。日本語では、巫師(ふし)や祈祷師(きとうし)、霊媒師(れいばいし)などがこのシャーマン(shaman)に該当します。シャーマンという言葉の語源は、シベリア東部に住む諸民族が用いる「ツングース語」で呪術師に当たる「シャマン」になります。シャーマンが発揮する能力で成り立つ宗教現象、概念をシャーマニズム(Shamanism)と呼びます。このシャーマニズムは、人類学や民俗学などの分野でも知られるアニミズム(あらゆる存在の中に霊が宿っているとみなす思想)と多くの共通点を持ち、ミルチャ・エリアーデ(宗教学者、作家、民俗学者)やジェームズ・フレイザー(社会人類学者)ら多くの著名な学者たちの研究対象にもなってきました。
シャーマンが超自然的な存在と交信をはかる方法は、大きく2つに分けることができます。1つは、シャーマンの魂が肉体を離れて忘我状態になり、神や霊と交信した後にそこで交わした内容を事後的に報告するというもの。これを「脱魂」と呼びます。もう1つは、霊的存在などがシャーマンの身体に取り憑き人格変換が行なわれるというもので、これを憑依と呼びます。脱魂とは異なり、霊に憑依されたシャーマンは、自分が変性意識状態にあった時のことを記憶しておらず、事後的な報告ができないことが大半です。
1人の人間がシャーマンとなるプロセスには幾つかの種類があるとされています。代表的なものとして、突如心身に大きな変化が表れ、神的存在によってシャーマンに選ばれたと見なされる召命型。霊能力を持つ一族に生まれ、霊的な資質やシャーマンに合った人格が受け継がれていると考える世襲型。盲目であったり、経済的に困窮したり等の事情からシャーマンになるための修行を行なう修行型の3つが挙げられます。
日本のシャーマンでいうと、沖縄の民間霊媒師であるユタの多くが召命型に当たり、東北の民間霊媒師であるイタコの多くが修行型に当たります。また、先述した「脱魂」と「憑依」の区別では、ユタもイタコも憑依型に分類されます。
古くから、あらゆる自然に八百万の神を見いだす日本の宗教である神道は、アニミズムとの結び付きが強いとされてきました。その点からも、日本の信仰の根本にはシャーマニズムの思想があると見られています。現在でも、イタコやユタが人々から畏敬の念を受けているのも、日本の風土にシャーマニズムが根付いている証であると言えるでしょう。