自然発火現象

自然発火現象とは

自然発火現象のイメージ

そもそも、発火という現象を引き起こすには、3つの条件が揃う必要があるとされています。それはつまり「酸素」「燃えるもの」「発火点以上の温度」になります。ライターも火事もこの3条件を満たすことで発火しているのです。ところが世の中には、これらの条件が揃っていないにも関わらず、発火したと考えられる現象が起きています。その一つが自然発火現象です。酸素と燃えるものという2つの条件は満たしているものの、発火点以上の温度を満たさない常温で発火することを一般的に自然発火現象と呼びます。自然発火現象には、科学的に証明されている現象と、さまざまな仮説が立てられてはいるものの、謎として証明ができずにいる現象とがあります。

科学的に証明されている自然発火現象

石炭や硫化鉱などの物質は、加熱による高温化されることなく、常温状態で酸化や分解を起こして自ら発熱し、その熱の蓄積によって発火することが知られています。身近な例としては、植物油の自然発火が挙げられます。これは天ぷらなどに使った油をそのまま常温で放置しておいたところ、酸化して発熱してさらに蓄熱されて発火を起こすという現象です。また、ワックスの染み込んだ布をゴミ袋に入れて放置したところ、ワックスに含まれていた油脂が酸化して発熱して蓄熱し、布が燃え上がる例も報告されています。

証明できず謎となっている自然発火現象

一方、未解明の自然発火現象としてよく知られているのは、「人体自然発火現象」の謎が挙げられます。人体が自然発火を起こしてしまうこの現象は、数百年前から記録に残されているものの、いまだに原因を突き止めることができていません。20世紀から21世紀に入っても、室内や車内などで人体の全部または一部だけが燃え尽きた状況でありながら、室内にも車内にも大きな燃え跡が残っていないという不思議な事件が数多く報告されています。どの事件も、3条件が揃っていないことから、自然発火現象と考えられています。また、家や工場で理由の分からない火が突然発生したり、特定の物や人が、原因不明の発火に何度も襲われたりするという例もあります。

19世紀以降に発生した人体自然発火現象では、現場の写真が残されているものもあります。その写真には、灰となった上半身らしき部分とまだ生々しさを持つ下半身が残された室内や、黒焦げになって床に横たわる人体らしき物体、バスルームで室内履きを履いた片足の先だけを残して燃え尽きたらしい黒い影などが写し出されています。室内の壁や床に多少の焦げ跡はあるものの、明らかに遺体部分との焼失度には大きな違いがあります。原因は分からないものの、これらが通常では考えられない発火であることは確かなようです。

人体自然発火現象における仮説

原因がわからないとはいえ、もちろん仮説は立てられました。20世紀に起こった人体自然発火現象の多くが、イギリスで報告されていることに注目した仮説を見てみましょう。イギリスではプラズマが発生しやすいことから、プラズマ原因説が唱えられました。ただ、プラズマは発火の火種にはなりますが、人体などの一部が異常な燃え方をする原因とは言い切れません。さらに、いくつかの人体自然発火現象で、タバコやパイプなどの火種が確認されたことから、プラズマ説は後退し、代わって人体ロウソク説が有力となりました。

人体ロウソク説とは、自然発火の際に人体がロウソクの役割をして燃料となり、さらに熱を蓄熱して長く激しく燃えるというものです。発火原因はタバコなどの外的要因ですが、それがまずは衣類などの燃えやすいものに移り、さらに人の体に含まれる脂肪分を燃料としてジワジワとロウソクのように燃え続け、体も骨も燃やし尽くして灰にしてしまいながら、周囲への類焼は少ないというものです。ロウソクに火を灯したまま、板やコンクリートの床に立てて放置しても、ロウソクが燃え尽きた後に火事になることは滅多にありません。それはロウソクという燃料が尽きてしまえば火も消えるからであり、それが人体の場合でも同じ現象を起こしていると考えたわけです。ただし、プラズマ説もロウソク説もその他の説も、すべての人体自然発火現象の答えとして確定はされませんでした。

現在に至っても、自然発火現象の原因を解明することができず謎が解けないため、新たな説も唱えられるようになりました。例えば、宇宙人や軍部による実験にその原因を見つけようとするものや、パイロキネシスと呼ばれる発火超能力を原因とするもの、人の中に発火性遺伝子が存在するのではないかとする説などがあげられています。もちろん、いずれも仮説の域を出ない説として、定着はしていません。

本来発火とは不自然な現象ということができます。それは、先に述べた3条件が自然に揃うことは滅多にないからです。だからこそ、その3条件が自然に揃ってしまった結果発火する現象を自然発火と呼ぶのです。自然発火現象は確かに起こり、その原因が解明されているものもありますが、少なくともいくつかの現象は今も謎のまま、さまざま憶測や仮説を呼び続けています。