錬金術と錬金術師

錬金術と錬金術師のイメージ

錬金術」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。そもそも、漢字の読み方が分からないという方も多いかもしれませんね。錬金術「れんきんじゅつ」の「錬」とは、「金属を良質のものに鍛えあげる」こと。つまり、錬金術とは、ごく簡単にいえば、鉱物を金に変える、鍛え上げる技術のことをいいます。「錬」には、修錬という言葉もあるように、心身や技を鍛えあげるという意味合いもあります。金を作り出すというと、なかなか貴重で、なんて崇高な術なのかというイメージがありますが、実際もとても奥深いものです。単に鉱物を金に変えるというだけでなく、その先にあるものが追求されるものだからです。

そのはかりしれない神秘を伴ったこの錬金術と、それを操る錬金術師について、少しだけ詳しく知ってみませんか。

錬金術の起源

錬金術とはいつ頃始まったものなのでしょうか。あまり耳慣れない言葉に、ひょっとすると新しい技術なのではないかと思われている方もいるかもしれませんね。けれど、その起源をたどると、古代エジプト期や古代ギリシャの時代にあったといわれています。このころからすでに、金を作り出す術は行われていたのです。このことは、3世紀頃とみられる「パピルス紙」に登場している、宝石の作成方法や金属変性法の記述からも、うかがい知ることができるといわれています。この「パピルス紙」はにエジプトで発見されたといわれるもので、3世紀頃のエジプトにはすでに鉱物の加工法についての知識も技術もあったことが分かります。古代エジプトやギリシャで産まれた錬金術は、時代を経て中世の中期頃に西ヨーロッパに伝わったといわれており、中世後期には発展へと向かっていきました。

錬金術の目的とは

ところで、錬金術の目的とはいかなるものなのでしょうか。錬金術とは、単に鉱物から金を生み出すという化学的な意味合いだけでなく、金の性質を知り、金を構成している「精」を得ることが目的とされています。ここまでは、それほど違和感を覚えないところもありますが、その「精」を得ることにより、不老不死の力を得ようとしていたことは、現代人の私たちにとっては驚きを隠せないことでしょう。

しかし、その真理を知ると納得がいきます。錬金術とは、「一般の物質を完全なる物質に変化させ、精錬しようとする技術」のことであり、それには人間の霊や魂をも含まれていました。20世紀に活躍した心理学者のユングは、錬金術の文献にあたり、これはまさに人格の完成、つまり自己実現のプロセスだと考えたのです。つまり錬金術には、最終的に人間の霊魂を完全なる霊魂に変性させようとする目的があるというわけです。完全なる霊魂とは、すなわち神に近づき、神と合一している状態であるとも考えられています。

錬金術師とはいかなる存在か

錬金術師は、この錬金術に携わる研究者でした。錬金術が持つ本来の目的から、高度な錬金術師になればなるほど、霊魂の完成が目指され、神なるものと一体化すると考えられていました。よって、錬金術師は神秘思想や宗教に携わる者といってもいい存在だったのです。

「ヘルメス・トリスメギストス(Hermes Trismegistus)」と聞いて、何か偉大なる人物を表す呼び名だという感想を持つかもしれません。それもそのはず、「3重に、もしくは3倍偉大なヘルメス」という訳の通り、伝説的な錬金術師のことを指します。「ヘルメス文書」「エメラルド・タブレット」を書いたといわれている人物です。

特にヘルメス文書は4つに大別されるとされており、哲学・宗教的な作品、占星術の作品、錬金術の作品、魔術の作品があります。錬金術師は、さらに別の一面からも見ることができます。それは、キリスト教から異端とされ、魔人とすらいわれていた錬金術師です。彼らがなぜ魔人とみなされ、オカルティストの代表のようにいわれていたのかといえば、カバラやグノーシス思想に惹かれ、研究し、自らをグノーシス主義者とすら名乗っていたから。グノーシス思想とは、キリスト教と同時期に地中海近辺で誕生したといわれている思想で、「知識を身に付ければ人は神にもなれる」という考え方に基づいています。また、カバラとはユダヤ教の神秘哲学のことで、後に魔術的な側面が強調されるようになり、西洋の魔人たちにとって必須ともいうべき基礎知識であるといわれています。錬金術師たちは、カバラやグノーシス思想に親しんでいたため、正統的なキリスト教は異端中の異端として、激しく彼らの支持する思想を弾圧し続けたといわれています。

歴史上の錬金術師

錬金術師として名を馳せた人物には、パリの出版業者で、金属の変成や賢者の石の製造に成功したといわれる生まれのニコラ・フラメルや、ルネサンス初期のスイスで活躍した医師であり錬金術師であった1490年代生まれのパラケルスス、シチリア島パレルモでに生まれ、医師や錬金術師、オカルト専門家などと称されたカリオストロなどがいます。

錬金術師は、キリスト教からは異端とされていたものの、卑金属を合成することによって黄金を生み出す術を用いることから、富豪や権力者の保護を受けながら生活していたといわれています。

神秘的な錬金術師。あまりの奥深さに、彼らを知るのにはまだまだ時間を要しそうです。