黄金の夜明け団

黄金の夜明け団のイメージ

魔術やオカルトの話が上るたびに、必ずといっていいほど取り上げられる黄金の夜明け団にイギリスで創設された魔術結社であるこの黄金の夜明け団では、多数の魔術理論や階級制のシステムが体系化され、現代の魔術界に大きな影響を与えました。この黄金の夜明け団はどのような人々によって創設され、また、歴史をたどり、人々に知れ渡っていったのでしょうか。この黄金の夜明け団にかかわった人物やその歴史の一部をご紹介します。

黄金の夜明け団とは

西洋近代魔術において、決して外すことのできない魔術結社「黄金の夜明け団」は、にイギリスで結成されました。設立者は次の3名、サミュエル・リデル・マクレガー・メイザース、ウィリアム・ウィン・ウェストコット、ウィリアム・ロバート・ウッドマンです。彼らは、カバラを基本としてキリスト教神秘主義や錬金術、エノク魔術、ルネサンス時代の魔導書研究などを経て、これらを総合した魔術を編み出そうとしました。そして最盛期には、100名以上の団員を抱えるまでに発展したのです。特に有名なのは、カバラで非常に重要な意味を持つ「セフィロトの樹」と呼ばれる図形になぞらえた教団特有の位階制度を構築したことです。しかし、19世紀末から20世紀初頭に、関係者の同士による内紛が起きてしまいます。その後、一時的に「曙の星」に結社の名称を変更するものの、分裂を繰り返して各メンバーたちは独自に魔術結社を結成していくことになりました。この黄金の夜明け団をはじめとした数々の魔術結社は、さらに多くの魔術結社の誕生を促しましたが、魔術に関するさまざまな研究がなされたことは大きな功績とされています。

黄金の夜明け団の教義

黄金の夜明け団の教義はカバラを中心にし、キリスト教神秘主義や東洋哲学、薔薇十字団伝説、錬金術、エジプト神話、タロット、占い、グリモワール(魔術書)などを総合したものだったといわれています。中でも、カバラにおいてさまざまな解釈が行われていたセフィロトの樹は、タロットカードと結びつけて研究が行われていたといいます。この黄金の夜明け団が保有している奥深い知識を得るためには、入団するだけでは駄目で、秘儀伝授の儀式を受けた後、その位階を上がっていくことが求められました。その知識を得るためには、ある程度高い段階まで達する必要があったのです。守秘義務の誓いと共に明かされるこれらの知識は、まさしく門外不出のものでした。セフィロトの樹で各セフィラーと呼ばれる玉をつないでいる22本の小径(パス)に対応した大アルカナは、タロットカードのイメージが利用され、「下位のセフィラーから上位のセフィラーへと上昇して「神」へと回帰するために自らの意識を変容させ、より高次元へ向かう」というカバラの目的が目指されました。

重要人物たち

黄金の夜明け団の中心人物であるウェストコットは、に医師の資格を得た後、にロンドンの検視官として活躍したほどの人物で、学識にかけては非常に広く長けていたといわれています。彼は「イギリスの首領達人」という役職に就き、黄金の夜明け団の段階的な序列制度(5=6位階)における認定監督を担いつつも、議事記録や通信係、会計監査などの事務も有能にこなしていたそうです。そして黄金の夜明け団の魔術体系を築き上げた近代魔術の祖ともいうべきマクレガー・メイザースの存在は、団の創設以上の大きさがあります。彼はにロンドンで生まれて以来、幼いうちに亡くなった事務員の父と同じく事務員の道を選びます。しかし、独学によってオカルティズムを学び、フリーメーソン、英国薔薇十字協会に入会。母の死をきっかけに、ウェストコットの家に居候することになりました。彼は大英博物館に通い、に「ヴェールを脱いだカバラ」を翻訳。これ以降、メイザースは英国で名高いオカルティストとしてデビューしました。その後、英国薔薇十字協会の会長であったウィリアム・ロバート・ウッドマンと共に、ウェストコットに誘われての黄金の夜明け団設立者の一人に名を連ねることになります。しかしにウェストコットが退団し、メイザースが黄金の夜明け団の事実上の最高指導者となりましたが、独裁的な支配に反感を募らせた幹部たちによるクーデターで、メイザースは追放されることになります。

秘儀が公になった経緯

黄金の夜明け団の暴露本である「生命の樹」や「石榴の園」を出版したのは、フランシス・イスラエル・リガルディという人物です。彼はにイギリスで生まれ、アメリカで育ったといわれています。彼の著書には、黄金の夜明け団系魔術の秘伝が多く含まれており、黄金の夜明け団に関係していた魔術師たちは、秘密の誓いを破るものとして彼を批判しました。しかしその後もからにかけて、リガルディはすべてのイニシエーション(儀式)や教義文書を「黄金の夜明け」という名の4巻本として公開しました。これにより魔術界は大パニックになりましたが、一方で世間に知れ渡ることになった功績は大きいものだとの評価もあります。秘密主義としてベールに隠されていた黄金の夜明け団系の魔術は、その秘伝や奥義すべてが知れ渡ったことで、現代魔術の繁栄へとつながったとされるからです。現代の魔術界においても重要視されている黄金の夜明け団の存在とその教義は、今もなお多くの魔術師たちによって研究され、実践されています。