九字

九字とは

九字のイメージ

九字は、現代社会では主に修道者、研究者や歴史家の間で知られている真言の一種であり、歴史上ではそれらに加えて忍者や陰陽師にも使用されてきました。漫画やアニメ、映画などのエンターテイメント分野で知識を得たという人も多いのではないでしょうか。九字の由来は古い中国の思想に求めることができますが、日本に伝わった後は独自のスタイルを確立して現在に至っています。その主な使用目的は護身法としてであり、そこから派生して調伏法としても力を発揮するとされています。

九字の由来

九字は横5本・縦4本の線の組み合わせで表現されます。元は九つの数字と五行、十干、十二支、八卦を組み合わせた九星(九宮)にあると考えられています。九にこだわるのは、九が陰陽道でも数字上でも、「最大」かつ「最強」を意味することと関係しています。九字という形式が最初に登場するのは中国の古い仙道書である「抱朴子」の中で、『魔を避けるための言葉』として使われています。これが古代中国の道教、日本の陰陽道、密教などへと伝わっていったとされます。

日本では、密教「大日経」の「胎蔵界法」の護身法と、中国から伝わった道教の真言である九つの文字が組み合わされて「九字」が生まれました。さらに陰陽道における呪法の要素が加わって、「九字護身法」が成立したと考えられています。

九字の種類とその意味

九字にはいくつものバリエーションがありますが、元祖であり主流でもあるのは「臨・兵・闘(鬥)・者・皆・陣・列・前・行」の九つの文字で、それぞれに「りん・ぴょう(びょう)・とう・しゃ(じゃ)・かい・じん・れつ・ぜん・ぎょう」と発音し、「臨む兵、闘う者、皆、陣列べて、前を行く」と読み下すことができます。もっとも、同じ密教においても宗派が異なると九字も少しずつアレンジされていき、違った内容になっています。また、陰陽道では九字に四神・神人・星神を当てはめた「青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳・帝台・文王・三台・玉女」や「朱雀・玄武・白虎・勾陣(陳)・帝久(帝公、帝正、帝台、帝后、帝禹)・文王・三台・玉女・青龍」も九字として使われています。

さらに、九字の前に一字を加えた十字の真言もあります。これは九字の効果を一つのことに絞りこんで強化することを目的とし、何に集中させるかによって加えられる一字が異なります。加える一字としては、「命・水・行・天・鬼・大」などが知られています。

護身法としての九字

九字はその発端が、山へと修行に入る時に護身のために唱える言葉でした。その用法は日本に伝わった後も受け継がれ、九字を唱えることは、その場を清めること、邪気を払うこと、安全のための結界を張ることを目的としています。その方法は、紙に書き印す、口の中で唱える、手印を結んで大声で唱える、さらには九字を唱えながら四縦五横に手刀を切る「九字切り」など、その密教宗派、陰陽道、修験法によって異なります。また、忍者が九字をその世界に取り入れたのは、精神集中や厄除けの効果を狙ってのことです。

調伏法としての九字

護身法としての九字は、その発展の途中で調伏にも使用されるようになりました。「禍が降りかからないように」という護身だけではなく、「降りかかった禍から身を護る」場合にも九字が求められたからです。そのため、九字は害を与える対象を調伏するという役割もあわせ持つようになりました。

宗教と九字

つまり九字は、民間信仰と宗教とが結びついて成立したと言えます。そのため、現在も宗教とは切り離すことのできない関係を持ち続けています。古くは中国の道教と深く関わっていましたが、日本では仏教全般と密教である真言宗や天台宗などの僧侶や修験者が護身、または調伏の呪文として使用してきました。先に述べたように、それぞれに九字の内容が異なることもありますが、その目的や使用方法はほぼ同じです。

九字が持つ力を最大限生かすには、精神的にも体力的にも十分な修験・修行が必要です。しかし、忍者が戦いや修行における精神集中のために九字を取り入れたように、または、古くは旅立ちの時、新しいことを始める時に護身のために唱えたように、私たちの生活に取り入れその文字や音を見たり聞いたり唱えることで、九字が与えるその効果は小さくなりますが、その身に受けることが可能です。