ピカトリクス魔導書

ピカトリクス魔導書のイメージ

ピカトリクス魔導書とは、中世ヨーロッパのグリモワールと呼ばれる6つの魔導書の中でも、400ページにわたる最大の情報量を誇ると言われている魔導書です。アラビア語で書かれた魔導書であり、別にスペイン語版、ラテン語版も存在しています。なお、このアラビア語版は、に発見された非常に古い、歴史ある魔導書とされています。元々は、「ガーヤト・アル=ハキーム」つまり「賢者の極み」と呼ばれていた書物のことで、ラテン語版に翻訳された際に「ピカトリクス魔導書」と呼ばれるようになったと言われています。

記されている主な内容は、魔術と占星術に関する著述です。「護符魔術の手引書」(護符魔術=神格召喚魔術)、魔術師が使用する調合薬の説明書など、内容も実に本格的で多彩となっています。しかしながら、調合薬については、使用される材料が動物の血液だったり人間の排泄物だったりするため、実際にこの魔導書を使って魔術を行うには、なかなか受け入れがたい人も多かったと言われています。

基本的な内容は、9~10世紀に近東で作られたヘルメス主義(錬金術師のヘルメス・トリスメギストスによる神秘主義的な思想のこと。日本では神秘学と呼ばれ、占星術、錬金術、神智学、自然哲学の要素を持つ内容の思想)、サビアニズム(イスラムの聖典コーランの中の啓典の民、つまり異教徒として扱われてきたマイノリティ集団の思考や思想のこと)、イスマーイール派のグノーシス主義(イスラム教シーア派の一派で、自己の本質と神という物質と神、二元論が特徴的な思想)ほか、思想、占星術、錬金術、魔術に関するテキストが多く見受けられます。別名では、「完全版・天界魔術書」とも言われています。この魔導書が西洋魔術へもたらした影響力は、かなり多大なものだったという声は研究者の間でも多く言われていることです。また、ルネッサンス時代の造形美術を語る上で、この魔導書のラテン語版の存在は不可欠とも言われています。

ピカトリクス魔導書の内容は四部に分かれており、実のところ著者は明確にはわかっていません。イスラムの歴史学者イブン・ハルドゥーンは「歴史序説」の中で、の間に死去した数学者アル=マジュリーティーではないか、と推測しています。また、他の学者は、ピカトリクスという表題は、アラビア語の文献におけるブクラーティース、またはビクラーティースという名への転写である、と語っていますが、いずれも定かではなく定着した説になってはいません。