エクソシスト

エクソシストとは

エクソシストのイメージ

エクソシストとは、キリスト教、特にカトリック教会で用いられる用語の1つで、エクソシズムを行う人のことを指します。エクソシズムは「誓い」、「厳命」を意味するギリシャ語で、日本ではエクソシズムを「悪魔祓い」、「悪霊払い」、「祓魔」と訳し、エクソシストを「祓魔師(ふつまし)」と呼んでいます。エクソシストはかつて、下級叙階の位階の1つとして存在し、洗礼式の時に悪魔を追放する儀式を執り行い、洗礼後悪魔に取り憑かれた人から悪魔を追い出し、正常な状態に戻す役割を担っていました。

カトリック教会では悪魔は抽象的な概念などではなく、実在するものであると考えられています。そして、聖書にイエス・キリストが悪霊を追い出したことが記載されているところから、悪魔祓いに関しては「教会は主(キリスト)からエクソシズム(祓魔)の権能と職務を受けている」としています。

カトリック教会におけるエクソシストの歴史

西暦250年ごろ、教皇コルネリウスがイタリアのみの公会議を行った時に、ローマには56人のエクソシストがいたと報告されています。エクソシストはこのように、カトリック教会が始まったころから存在した役職ですが、その役割は改宗の補助にすぎませんでした。キリスト教が浸透し始めた当時、多神教であるローマの伝統的な信仰から一神教であるキリスト教への転換はとても難しく、宗旨替えにおいては、その人の信じる価値体系すべての修正が必要でした。人は心に深く根を下ろす価値観を変える際に、重大な精神的危機に見舞われることがあります。その一形態が憑依、悪魔憑きと呼ばれる錯乱状態であり、エクソシストはこのような人々の精神的不安を取り除くことを任務としていました。

時代が流れるにつれエクソシストの権能は拡大し、スルプリと呼ばれる、スータン(カトリックの僧衣)やアルバ(西方教会の礼拝で用いられる衣服)の上に羽織る白い上衣を身につけることができるようになります。そうしてエクソシストは、トリエント公会議(1545年3月15日~1563年12月4日までトリエントで行われたカトリック教会の公会議)で、正式に定められた4つの下級叙階の1つとなります。「守門」の次にあたる位階です。

しかしながら現代化が進むと、エクソシストという位階は次第に形骸化し、1962年~1965年、ローマ教皇ヨハネ23世のもとで開かれ、パウロ6世に引き継がれた第2バチカン公会議において教会制度が見直された結果、1972年に廃止となりました。その後設けられた「教会奉仕者」という職務が守門や祓魔師といった下級叙階の機能を引き継いでいるという見方もありますが、現行の教会法では叙階、位階にエクソシストは存在しないとされています。

現代のエクソシスト

現在、キリスト教で行われるエクソシズム(祓魔)は洗礼式における悪魔追放や、聖別(聖なる使用にあてるため人や物を儀礼的に清め、世俗的使用から区別すること)の祈りにおいて悪しき力を排除するという、広義的な働きをしています。しかしまれに、「盛儀祓魔式」という、過去にエクソシストが行っていた、悪魔に憑かれた人に対する悪魔祓いが行われることがあります。その儀式はエクソシストという位階がなくなった現在、司教から許可を受けた司祭が執り行います。ですが、盛儀祓魔式が行われるのには厳しい条件があり、まずは医学的、科学的見地から照査し、当人の苦しみが病気からきているものではないか、医療での治療が可能でないかを確かめたあとに、悪魔憑きだと判定される必要があるため、滅多に執り行われることはありません。

日本におけるエクソシスト

カトリック教会でエクソシストとされる、悪魔祓いの役目を持つ人は、各国、各宗教、民俗信仰においてそれぞれの名前で存在しています。日本でそれは「修験者」や「陰陽師」とされ、彼らは調伏呪文、加持祈祷などによって、物の怪と成り果てた魂、または邪気、邪霊に侵された人からその邪気を払う役目を担っていました。そのほか、悪魔祓いという点においては、民間行事の疫神送りや人形送り、祭り、左義長、民間芸能の獅子舞などにもその役目を見出すことができます。