悪魔

天使も悪魔も、もともとは一つだった?

悪魔のイメージ

キリスト教や仏教などにおいて、悪魔は人間を誘惑し、堕落させる邪悪な存在として描かれてきました。その姿形はグロテスクで恐ろしいものがほとんど。動物と人の形が合わさったもの、複数の動物が融合した形のものもいます。こうした「悪魔=悪」といった考え方は、キリスト教が広まる以前にはありませんでした。悪魔を表す言葉の一つ「デーモン」の語源は、ギリシャ語で「運命」「神の力」を表す「ダイモーン」。本来悪魔は聖霊、妖精などといった霊的な存在に近く、邪悪な悪魔もいれば善良な悪魔もいます。しかし今日では、キリスト教のイメージの方が一般化しているのです。

キリスト教において、天使と悪魔はもともと同じ概念だとされています。悪魔界を統べる魔王サタンも、かつてはルシファーと言う名前で、すべての天使を治める大天使でした。しかしある時、神様の命令に背いた罰で天界から追放されます。知性が高く、能力が高かったルシファーは、「我こそが神である」と言って、自らの軍を率いて神様に戦いを挑みます。しかし敗北し、仲間の天使もろとも地獄へ落とされ、悪魔になってしまったのです。徳を積み、常に謙虚であることを“善”とするのに対し、ルシファーのように「自分だけよければよい」という考え方や傲慢であることは、“悪”として描かれました。

悪魔と契約してしまった人たち

悪魔は、その強い魔力で人間のどんな願いでも叶えてくれます。しかし、人間はその対価として自分の魂を差し出さなければなりません。己の欲望に勝てず悪魔と契約を交わし、悲惨な末路を迎えた人々をご紹介します。

ヨハン・ファウスト

16世紀のドイツ。占星術や錬金術に精通し、学者でもあったファウストは、悪魔メフィストフェレスと召喚し、24年間の契約を交わします。彼は贅沢な暮らしや姦淫にふけるなど、世俗的な欲望を満たすために悪魔の力を使い、美女ヘレネとの間に子供までもうけます。そして契約が切れる日、彼は教え子と宿泊した宿で、八つ裂きにされてしまうのです。錬金術が失敗し爆発に巻き込まれたと言われていますが、真相は明らかにされていません。彼の逸話は、ゲーテの戯曲『ファウスト』のモデルにもなっています。

ジル・ド・レ

1404年、フランス・ロワール地方で生まれた貴族の青年、ジル・ド・レ。王太子シャルルに仕え、百年戦争で数々の功績を残した彼は、ジャンヌ・ダルクの戦友でもありました。ところが、ジャンヌが火刑にかけられたことで神を憎むようになり、だんだんと黒魔術や錬金術に傾倒していきます。大富豪の娘と結婚し、莫大な資産を手に入れた彼は、やがて領地の城にこもるようになりました。実は、彼は子供をさらってバラバラに切り刻み、生贄としてサタンに捧げていたのです。1440年、ジルは300人以上の罪のない子供を虐殺した罪で火あぶりの刑となり、その生涯を終えました。

ロバート・ジョンソン

ロバート・ジョンソンは、1900年代初頭のアメリカで活躍した伝説的なミュージシャンです。彼のギターテクニックは、現代でも多くの音楽家たちから絶賛されるほど、ロック業界に大きな痕跡を残しました。しかし、わずか2年でその演奏テクニックを身につけたことや、彼が創る曲の多くに悪魔や地獄を連想させる歌詞が使われていたことなどから、周囲からは「彼は悪魔と契約をしたのだ」とささやかれました。27歳という若さで謎の死を遂げたことも、その噂に拍車をかけていることは間違いないでしょう。

現代においても、バチカン市国には悪魔祓いの職業が存在していることからもわかる通り、悪魔は私たちにとって身近な存在だと言えるでしょう。常に私たちの生活の陰に潜み、油断した時、耳元でそっと甘い言葉をささやくのです。悲惨な末路を迎えたくなければ、決して魂を売り渡してはなりません。