ソロモンの小さな鍵

ソロモンの小さな鍵のイメージ

「ソロモンの大いなる鍵」「アルマデル奥義書」、「大奥義書」、「モーセ第6、第7の書」、「エメラルド・タブレット」など、呪文や天使悪魔などの召喚法、魔除けの作成法、薬(媚薬)の調合法などを記した魔術書は、中世ヨーロッパにおいて「グリモワール」と呼ばれていました。このグリモワールのうち、代表的なもののひとつが「ソロモンの小さな鍵」です。

魔術書「ソロモンの小さな鍵」

「ソロモンの小さな鍵」は、「レメゲトン」とも呼ばれ、5つの書からなるといわれています。特に第一の書である「ゲーティア(ゴエティア)」のことを指して「ソロモンの小さな鍵」と呼ばれることもあるようです。

その他、第二の書「テウルギア・ゲーティア」、第三の書「パウロの術」、第四の書「アルマデル」、第五の書「アルス・ノヴァ」から成り立っています。

悪魔召喚のバイブルとして名高い「ゲーティア」

「ソロモンの小さな鍵」の第一部である「ゲーティア」には、イスラエル王国第三代の王であるソロモン王が使役していたといわれる72柱の悪魔とその召喚方法が記されています。特に、召喚に必要な道具や呪文などが記されていることに特徴があります。さらに本書では、悪魔を召喚することでさまざまな願望を叶えることができるとされています。それぞれの悪魔は地獄で階位を持っており、悪魔や堕天使など膨大な数が所属する軍団を従えているといわれています。このソロモン72柱と呼ばれる悪魔は、ソロモン王が封じたとされる72の悪魔のことです。ちなみになぜ「柱」で数えるかと言えば、日本の神道でも御神体や遺骨などを数える際に用いられるのと同様で、悪魔も同じ“霊のひとつ”であることから使われているとされています。

さてゲーティアには、これらの悪魔の性格や姿かたち、特技などが詳細に綴られています。それゆえ、「ゲーティア」は悪魔の名鑑として後々の時代でも参照されてきました。「地獄の辞典」「悪魔の偽王国」などの有名な著作にも、「ゲーティア」に共通する悪魔が多数収録されています。現在、私たちがイメージする悪魔の姿とは、この「ゲーティア」の影響を多分に受けているといっても過言ではありません。

悪魔とその召喚方法

「ゲーティア」では、1番目のバエルから72番目のアンドロマリウスまで、72柱の悪魔の特徴が記載されています。それぞれの悪魔が持っている印章や、「王」「公爵」「君主」などの地位、そして従えている軍団の数などを知ることができます。実際に「ゲーティア」の悪魔を召喚したといわれる人物として、魔術師のアレイスター・クロウリーがいます。クロウリーは、健康をもたらすといわれる悪魔ブエルを召喚し、頭部と足を出現させることに成功したと伝えられています。さらにこんな話もあります。クロウリーがアラン・ベネットという魔術師の喘息を治そうとしました。しかしクロウリーの意図とは裏腹に、病状は一向に良くなりません。しかし、クロウリーがベネットをセイロン島へ送った後、ベネットの病状は回復しました。クロウリーはこの一連の流れが、自身がブエルを召喚した成果だと考えました。

悪魔を召喚するには、まず魔法円と魔法三角形を描きます。そして悪魔の印章やソロモンの魔法の指輪などを装備した召喚者が魔法円の中に入り、呪文を唱え続けます。悪魔が召喚されたら、その悪魔に命令を下し、退去させて終了する、これが悪魔召喚の一連の流れです。

「ソロモンの小さな鍵」が出るまで

「ソロモンの小さな鍵」は、どのような形で世に広まっていったのでしょうか。にロンドンで生まれ、隠秘学結社「黄金の夜明け団」の創立メンバーでもあるマグレガー・メイザースは、大英博物館で「レメゲトン」の古写本を発見して筆写することで、これを決定稿に仕上げたといわれています。メイザースが作成したとされる「レメゲトン」の写本は、同団体のメンバーに貸し出され、その一部がアラン・ベネットを経て、クロウリーの手に渡りました。その後クロウリーによって、一部のゲーティアのみが収録された「ソロモン王のゴエティアの書」と呼ばれる書物が出版されました。その内容は、「ゲーティア」に魔術に関する序説やエノク語で書かれた召喚文、アウゴエイデス勧請などが加えられたものだといわれています。

「ソロモンの大きな鍵」の存在

ソロモンの鍵といえば、この小さな鍵のほかにも「ソロモンの大きな鍵(大いなる鍵)」という書物の存在に行き当たります。こちらは、マグレガー・メイザースによって再構成されたといわれるものです。再構成の元になったといわれているのは、大英博物館所蔵の「ソロモンの名を冠する7種類の断章」で、15世紀前後のグリモワールだったと推測されています。「ソロモンの大きな鍵」の特徴は、豊富な図版と付録の魔術用の護符にあるといわれています。魔術用具の作り方や、儀式を行うための約束事、精霊の召喚方法などが記載されており、こちらも魔術書としては典型的なものだといわれています。「ソロモンの小さな鍵」と同様、有名なグリモワールのひとつとして今に伝えられています。

悪魔の名鑑として名高い「ソロモンの小さな鍵」「レメゲトン」の中の「ゲーティア」。悪魔と表現されていますが、キリスト教圏から見た「悪魔」という意味であり、本来は古代から各地で崇拝される神々であったといわれています。いずれにせよこの72柱の悪魔が記された「ゲーティア」は、貴重な魔術書のひとつに現代でも数えられています。