ソロモンの大いなる鍵
西洋の魔術をひと言で語ることは易しくありません。しかし、その典型ともいえる文書があります。それが「ソロモンの大いなる鍵」です。19世紀末から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパ各地では数々の秘密結社や魔術結社が内紛を起こして分裂、そしてまた新しく誕生する中で、魔術に関する様々な研究が行われていました。とりわけその中でも、マクレガー・メイザースなる人物がに発行した魔術書「ソロモンの大いなる鍵」、そしてに発行された「ゲーティア」、この2冊が魔術界に与えた影響は大きいと言われています。
「ソロモンの大いなる鍵」とは
イギリスはロンドンにある「大英博物館」、ここに保管されていたソロモンの名を冠する7冊の断章。これらの写本と資料を元に翻訳、編集、再構成されたのが魔術書「ソロモンの大いなる鍵」です。英語では「The key of Solomon the king」と呼ばれ、魔術書としては最も有名、かつ典型的な内容であると言われています。その内容は、魔術に使う護符や魔術道具の作り方、儀式を行うための約束事、精霊の召喚方法や使役方法、7つの惑星の霊力を借りるための術式などで構成されています。特に護符の種類は43種類もあると言われており、土星、木星、火星、太陽、金星、水星、月の7惑星の護符がそれぞれ複数掲載されています。
ソロモン王とは
「ソロモンの大いなる鍵」が何であるかを知るために、そもそもソロモン王について理解しておく必要があるでしょう。ソロモン王とは、古代イスラエル王国の第3代目の王で、ソロモンの指輪と呼ばれる黄金の指輪によって天使や悪魔を使役したと伝えられています。またその指輪の力を駆使して、エルサレム神殿を完成させたとも言われています。ソロモン王はエジプトのファラオの娘と結婚することで安全保障を確立、後に古代イスラエル最盛期と呼ばれるほどの時代を築き上げました。特に有名なのは、ソロモンがファラオの娘を娶り、神に盛大な捧げものをした際、神が夢枕に立って「何でも願うものを与えよう」と問いかけたという逸話です。そのときソロモン王は「知恵」を求め、神によって多くの知恵が与えられたというのはよく知られているエピソードです。
グリモワールとしての価値
「ソロモンの大いなる鍵」は、グリモワールの一種です。グリモワールとは、フランス語で「魔術の書」を意味し、ヨーロッパで流布されていたものを指します。魔術書、奥義書、魔導書などとも呼ばれます。「ソロモンの大いなる鍵」は、書の内容よりも豊富な護符などの図版について評価されています。むしろ書の内容が取り上げられるのは、「ソロモンの小さな鍵」と呼ばれるグリモワールです。「レメゲトン」や「ゲーティア」とも呼ばれるこの書物には、ソロモン王72柱の悪魔の解説と使役の仕方が掲載されています。実のところ、知名度としては「ソロモンの小さな鍵」の方が高く、「ソロモンの大いなる鍵」はしばしば混同されてしまいます。「ソロモンの小さな鍵」は、4種または5種の魔術書を合本したグリモワールであり、にアレイスター・クロウリーによって魔術に関する序説などが加えられて出版されました。
翻訳・編纂者 マクレガー・メイザース
「ソロモンの大いなる鍵」を翻訳・編纂したマクレガー・メイザース。なによりメイザース自身も、優れた魔術師であったといわれています。彼はにロンドンに生を享けてから、フリーメイソンに入会して本格的に隠秘学の研究を開始した後、英国薔薇十字協会に入会。後に隠秘学結社である「黄金の夜明け団」の設立に関与し、三首領の一人に数えられるまでになりました。そして「ソロモンの大いなる鍵」を手がけたのは、のことになります。メイザースはあるとき、「秘密の首領」と呼ばれる現実世界とは別の高次のアストラル界に住む超人と接触したことから自信を持ち、黄金の夜明け団において権威が増していったと言われています。そして、団体の大改革を行い、実力重視の魔術結社を作りあげたのです。やがて、メイザースは黄金の夜明け団の事実上の最高指導者の地位にのぼりつめました。しかし、独裁的な支配を行ったことが原因となり、メイザースはに他の幹部たちによって追放されてしまいます。ただメイザースはその後も精力的に魔術活動を行い、今でも有名ないくつかのグリモワールの翻訳を続けました。
メイザースが翻訳・編纂したのは「ソロモンの大いなる鍵」の他にも、「ゲーティア」や「アルマデル奥義書」があります。これらはいずれも、現代の魔術師からも評価があるといわれているグリモワールです。なお、いずれも日本語で読むことができる文書になります。イスラエルの王ソロモンの名を冠した、天才魔術師と呼ばれるメイザースが編纂した貴重なるこの「ソロモンの大いなる鍵」は、魔術の典型書として現代でも盛んに参照されています。これを元に正確に作られた護符は非常に強力で、幸運や危険から身を守るパワーがあると言われています。こうして古の知恵は、今でも生き続けているのです。