魔術師と霊能者

魔術師と霊能者のイメージ

魔術といって思い出すのは何でしょう?魔女、魔法使い、魔術師などがありますね。ファンタジーやオカルトのイメージが強い魔術ですが、リアルにとらえている人はどれくらいいるでしょうか。魔術は、人間の願望を魔の力によって叶える儀式的な力です。魔術にはいろいろな形があり、魔術について語る人々は多く、その人々によって魔術を語る言葉は違います。魔術について語り、そして魔術を操る魔術師。魔術とは何か、魔術師とは人間か……その謎を解き明かせるのは魔術師だけ。では世界の著名な魔術師をご紹介しましょう!

アレイスター・クロウリー

(生誕:・没:・イギリス)
近代西洋儀式魔術秘密結社「黄金の夜明け団」(注1)から独立した神秘主義者であり魔術師でもある。著作も多数あります。彼は、子供の頃、厳格なキリスト教の学校に入学しましたが、キリスト教に反発。学校にはなじめず入学退学を繰り返し、今でも語り継がれる魔術結社「黄金の夜明け団」に入団。もともとオカルト志向があったクロウリーは、この魔術結社の教義に傾倒していきます。その後、世界各地を旅し、神秘主義結社「銀の星(A∴A∴)」を開設し、機関紙に多くの神秘主義関連の作品を執筆し、シチリアではテレマ僧院も開設するほどの存在に。しかし、そこでの麻薬とセックスの儀式の末、信者が死亡してしまい、そのことをきっかけに、クロウリーは国外追放となってしまいました。転々とした末、「東方聖堂騎士団」(注2)で、セレマの法(注3)を宗教原理とする団体として指導するようになるのです。彼には著名人の支持者も多く、ミュージシャンのジミー・ペイジ、デビッド・ボウイなどが支持者として名を連ねています。

ダイアン・フォーチュン

(生誕:・没:・イギリス)
フロイトの心理学を魔術に導入したことで知られる、近代西洋儀式魔術の優れた教育者であり魔術師。本名はヴァイオレット・メアリー・ファース。少女の頃から神秘的なものに惹かれていた彼女。教師になったとき、オカルト系の校長から心を傷つけられてしまいます。しかし、立ち直った彼女は、その後「A∴O∴(アルファ・オメガ)」(注4)エジンバラ支部に入団し、これとは別にフロイトの心理学を学んだことから頭角を現します。やがて彼女は魔術師であると同時にサイコセラピストになり、ロンドン本部に移動。神智学の世界に傾倒し、「神智学教会キリスト教神秘主義ロッジ」を設立しました。これは彼女のライフワークとなります。しかし、ロンドン支部を率いるモイナ・メイザース(注5)と敵対し、魔術戦もくり広げ、死者を出すほどの強烈な闘いを余儀なくされるのです。その闘いを乗り越えた彼女は、独自の結社「内奥の光」協会を維持。著書も多数残しました。ダイアナは魔術だけでなく、心理学関係の書籍も多く「神秘のカバラー」(注6)は代表作と言われています。

クリスチャン・ローゼンクロイツ

(生誕:・没:・ドイツ)
伝説の魔術師として、いまなお語り継がれているローゼンクロイツ。それは彼が「薔薇十字団」(注7)の開祖と言われているからでしょう。貧乏な没落家系に生まれた彼は、修道院で育ちます。彼は、そこでのちに「薔薇十字団」を結成する仲間と知り合います。16歳でエルサレムへ巡礼の旅へ出た彼は、たどり着いたイエメンのダルカムで、賢者たちに「待ち望んでいた人物が来た」と歓迎されるのです。ローゼンクロイツはここで、アラビア語、数学、自然学を学び、奥義書『Mの書』と呼ばれる書物をラテン語に翻訳します。そして、モロッコのフェズで四大精霊人と呼ばれる人物と出会い、ローゼンクロイツは伝説の魔術師となりうる多くの知識を得て、ドイツに帰国し、修道院の仲間とともに「薔薇十字団」を結成するのです。「薔薇十字団」の存在が広まったのは、ローゼンクロイツの死後、以降と言われています。錬金術や魔術で、人々を救うとされる「薔薇十字団」に傾倒する人物は多く、入団希望者や団員であったと語る者が現れるなど、今でも影響力は絶大です。

マクレガー・メイザース

(生誕:・没:・イギリス)
伝説の秘密結社「黄金の夜明け団」(注1)の創始者のひとり。本名はサミュエル・リドル・メイザース。世の中の魔術師たちのほとんどが強い影響を受けているのが「黄金の夜明け団」の教えと言われています。マクレガー・メイザースは、父が幼い頃に亡くなり、母子家庭で育ちました。高等教育は受けていませんが、独学でオカルティズムを学び、やがてフリーメーソン(注8)に入団。そのあと「薔薇の十字団」(注7)にも入団しています。彼は、母の死をきっかけに「黄金の夜明け団」を共に設立したウィリアム・ウィン・ウェストコット宅に居候することになります。「黄金の夜明け団」を結成後、彼は同じオルカルティズムを学んだモイナ・ベルグソンと結婚。多才なメイザースは著作、翻訳も多く、博学であったため、結社内で力を広げていき、団の改革に着手。しかし、あまりに独裁的なために反発が起こり「黄金の夜明け団」を追放されてしまいます。その後、メイザースは「A∴O∴(アルファ・オメガ)」(注5)を設立し、妻のモイナとともに活動を続けました。

エリファス・レヴィ

(生誕:・没:・フランス)
近代魔術を語る上で忘れてはならない存在と言われているのは、エリファス・レヴィです。本名は本名アルフォンス・ルイ・コンスタン。パリの貧しい靴職人の家に生まれたレヴィは、幼いころから霊感が強く、信仰心が厚く、心優しい性格だと言われていました。彼を魔術に目覚めさせたのは神学校に入学してから。ここで哲学、ヘブライ語の基礎を学び、魔術的カバラーの下地を作ったそうです。聖職者となった彼は、聖シュルビス会の創設者オリエ師の著作に傾倒。しかし、その後、レヴィは聖職者としてはあるまじき恋愛に陥り、そのことを苦しんだ母は自殺。レヴィはその後、聖職者の道からはずれていきます。一時は社会主義者として革命に身を投じますが、ルイ・ナポレオン時代になると政治への関心を失い、カソリック信仰に戻り、オカルティズムの道を極めていきます。そして社会主義者から魔術師へ。彼の著作であり代表作「高等魔術の教理と祭儀」(注9)の影響を受けた魔術師は数知れないと言われています。


注1:「黄金の夜明け団」
19世紀末にイギリスで創設された近代西洋儀式魔術の秘密結社。略してGD団。、ウィリアム・ウィン・ウェストコット、マグレガー・メイザース、ウィリアム・ロバート・ウッドマンの3人によって発足。教義の中心は「カバラー」、ほか神智学、錬金術など。一時は100名以上の団員を誇ったが、やがて3つに内部分裂。その活動は秘密裏に行われていたが、イスラエル・リガルディの著作により活動内容が公にされる。
注2:「東方聖堂騎士団」
20世紀初めに創設された国際的な宗教団体。略してO.T.O.。結成当初はフリーメーソン系の団体だったが、アレイスター・クロウリー傘下になると、「汝の意志するところを行え、それが法の全てとなろう」と「愛は法なり、意志の下の愛こそが」という「セレマの法」の教義が中心となる。現在もO.T.O.と名乗る団体は存在している。
注3:「セレマの法」
「セレマの法」はアレイスター・クロウリーが布教した宗教団体。このセレマという言葉は、フランソワ・ラヴレーの「汝の意志することを行え」を教義としている。
注4:「A∴O∴(アルファ・オメガ)」
「黄金の夜明け団」追放されたマクレガー・メイザースが設立した秘密結社。「黄金の夜明け団」のメイザース派が集まっている。
注5:モイナ・メイザース
マクレガー・メイザース夫人であり、「A∴O∴(アルファ・オメガ)」の首領でもある。
注6:「神秘のカバラー」
ダイアン・フォーチュンの代表作。生命の樹の解説書と言われる本書は、神の創造の過程を図式化したもの。魔術師必読の書と言われている。魔術初心者には入門書になり、上級者には気づきの書となる名著と言われている。
注7:「薔薇十字団」
中世から存在する秘密結社。クリスチャン・ローゼンクロイツが創始者で、錬金術や魔術で人々を救うと言われている。
注8:フリーメイソン
16~17世紀にはじまった友愛結社。現在も世界中に600万人いるという噂もある。日本人も多いそうだ。石工職人、テンプル騎士団など様々な説があり。会員同士の親睦を図る団体とありますが、その内容は謎。
注9:「高等魔術の教理と祭儀」
エリファス・レヴィの著作で、魔術師だけでなく、多くの文豪にも影響を与えた、いわゆる魔術の古典。「魔術」とは何か。レヴィはそれを理路整然と哲学としてとらえ、悪魔天使もすべてを統治できるものであるとしている。